出版社内容情報
竹藪も枯らしてしまう“やぶからし”そんな男に奔る女の心の襞……。
生れついての放蕩がやまずに勘当され、“やぶからし”と自嘲するような前夫のもとに、幸せな家庭や子供を捨ててはしる女心のひだの裏側を抉った表題作。美しい妹の身勝手さに運命を変えられた姉が、ほんとうの幸福をさがし求めるまでを抑制された筆でたどった『菊屋敷』。ほかに、『避けぬ三左』『孫七とずんど』『山だち問答』『「こいそ」と「竹四郎」』『ばちあたり』など、全12編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
86
これは、洋食・中華・日本食とバラエティーに富んだ料理が味わえる短篇集です。私のイチ押しは、じっくりと読み応えのある表題作【やぶからし】。武家へ嫁いだ娘は、果たして仕合わせだったのか、それとも不幸だったのか? を読み手に問うている、中身の濃い物語です。夫や子供、そして嫁の良き理解者の舅姑まで捨てて、勘当された前夫のもとへ走る女の気持が、いまひとつ理解できなかった。凄まじい女の芯の強さを感じました。唯一の現代モノ【ばちあたり】東京に住む三人の姉弟が、母危篤の知らせで駆けつける。明るい話ではないが面白かった。2022/09/10
nakanaka
76
12編から成る短編集。特に面白かったのは、学問の家に生まれ、独身でありながら妹の子を養育することになった女性の生き方を描く「菊屋敷」。自分の幸せと預かった子供を育てる使命感の狭間で生きる女性が切なくも健気に描かれていて印象的でした。また、現代小説の「ばちあたり」も心打たれる傑作でした。山本周五郎の短編集でたまにあるラストに現代小説をもってくる構成。たまりません。容態が急変した母の許に向かうため電車に乗り込む兄妹三人と母と同居する末弟との複雑な人間模様を描いた作品。末弟の劣等感と母の愛情に胸打たれました。2021/04/22
優希
62
戦前の大衆的作品、コミカルな作品、珠玉の短編と様々な色合いが楽しめました。こんなに面白い時代小説があるのかとうならされます。初期の短編から晩年の現代ものまでが収録されているからでしょう。ニヤリとさせられたり感銘を受けたりと幅広い楽しみ方ができました。古さを感じず、短い作品の中に深い人間や場に対する洞察がありますね。人間を書き出すのが上手いからこそ、様々な味を楽しめるのだと思いました。2015/01/07
キムチ27
44
短編が12編・・車中で読む。標題の絶望感がたまらない。しかし、他作は案外塞翁が馬的で・・人間、生きてみるもんだなと勇気を貰えた。2015/10/18
Kira
18
図書館本。短編十二篇収録。主人公の立場がこの上もなく悪くなったところから起死回生するような、胸のすく話が多かった。困った状況にもじたばたせず、主人公が自然体でいるのがいい。ただ、表題作だけは、救いようのない暗さに満ちていた。2022/07/06