内容説明
藩中きっての臆病者と評判をたてられた若侍が、それを逆用し奇想天外な方法で誰も引受け手のなかった上意討ちを果すまでを描いた『ひとごろし』、“無償の奉仕”という晩年最大の命題をテーマに著者の人間肯定がみごとに定着した『裏の木戸はあいている』をはじめ、戦前の作品から最晩年の表題作まで、“武家もの”“岡場所もの”“こっけいもの”等々の代表的短編10編を収める。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅の木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
89
周五郎の小説、30作目でハズレなしを再確認しました。タイトルの『ひとごろし』はこの上なく物騒ですが、この表題作は臆病者の若侍を主人公にした、とても愉しめる短篇です。【女は同じ物語】は他の短篇集で読んで、これが3度目でしたが新たな発見もある傑作です。【しゅるしゅる】も是非とも読んでほしい滑稽モノです。私の印象作は、岡場所を舞台にした【雪と泥】女に騙されているのも知らないで、どんどん深みにハマっていくドジな男が描かれています。戦前から晩年までのバラエティーに富んだ、山本周五郎の傑作が味わえます。2023/02/14
タイ子
81
読友さんのレビューに惹かれて久しぶりの山周作品。山周さんの男と女はどこかユーモアがあって、人間てズルいけど可愛いなと思わせてくれる。表題の「ひとごろし」は何とも物騒なタイトルに似合わない面白い人間模様が描かれる。臆病者と言われる男が奮起して上意討ちを決意。相手の男を追って旅に出るが、どうにも勝てる見込みがないと思いある計画を立てる。その計画が何とも落語的で笑える。「女は同じ物語」が好き。婚約者がいるにも関わらず、お側付きの女を好きになった武士の結末は…。どの作品も飽きさせない面白さ。2023/03/03
nakanaka
70
10篇から成る短編集。一番面白かったのは、御定法の改定に反対して閑職に左遷されていた中所直衛が憂さ晴らしをするかの如く躍動する「改訂御定法」。 また、表題の「ひとごろし」もユーモアがあって楽しめた。ぱっと見血なまぐさい内容なのかと思いきや、自他共に認める臆病者の双子六兵衛が斬新な方法で上意討ちを成し遂げるという内容。 個人的には、これまで読んできた長編や短編集よりも一つの短編集としてみると劣るように感じました。それでも面白いことに変わりはありませんが。2021/02/06
こばまり
55
まずもって女が可愛いし男も素敵だ。いじらしい。加えて自然描写の見事さと、読者をぐいっと牽引する構成力。あぁ小説を読んだという満足感に包まれる。没後50年の記念展に赴き手に取った次第。老後の夢は新潮周五郎文庫の読破です。 2017/05/28
のびすけ
35
「女は同じ物語」「しゅるしゅる」「ひとごろし」のこっけいもの3作品が面白かった。物語の絶妙なオチと、心温まる読後感がどれも絶品。その他心に残ったのは「改訂御定法」。新しい御定法に乗じた武家と商人の間の紛争を見事なお裁きで解決する。シリアスな物語の一方で、どこか愛嬌のある佳奈と直衛との微笑ましい関係がとてもいい。「鵜」では、川を裸で泳ぐ謎めいた女性ただこが印象的。残酷な結末がせつない。「壺」で又右衛門が語る"人間の値打ち"が胸に響く。2022/12/11