出版社内容情報
山本 周五郎[ヤマモト シュウゴロウ]
著・文・その他
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
586
タイトルこそ『さぶ』だが、出番は栄二の方がずっと多い上に、プロットを背負うのも、物語の中で視点人物の役割を果たすのも共に栄二である。したがって、読者もまた栄二に従って物語の進行を追うことになる。だが、最後の一文に辿り着いた時、私たちはやはり主人公はさぶだったのだと思いいたる。さぶを一言で表現するなら「愚直」ということになるだろうか。そして、その愚直が持つほんとうの価値を知っていたのは栄二である。しかも、その栄二においてさえ、物語の最後の最後でさぶの価値を知るのであり、況や私たち読者においてはなおさら。2021/10/09
みも
253
不朽の名作。才気煥発だが直情的な栄二を通し、さぶの純朴さや表裏のない実直さを際立たせる。友情の物語であると同時に、人と人との絆が心の深奥に沁みる。女一人で「生き馬の眼を抜くような、世知辛い世間」で生き抜くおのぶが栄二に喝を入れる「人間が人間を養うなんて、とんでもない思いあがりだわ」峻烈な怨恨に悶える栄二は、やがて人々の無償の心遣いに触れ、人は寄り添い恩義を重ねて生きるという人生訓を学んでゆく。登場人物全ての生き生きとした個性創出と、お仕着せのない金言の数々。「おら、思うんだが、みんなに読んでもらいてぇな」2021/03/05
zero1
237
時代小説を苦手とする人に、ぜひ読んでほしい一冊。山本の代表作と言っていい人情話。栄二は盗みの疑いをかけられ自暴自棄になる。さぶと人足寄場に。人はどこまで信じられるのか?栄二の話が主なのに何故、この題名かは読めば分かる。結末に驚かされた読者は多いはず。「深夜特急」(沢木耕太郎)でも紹介されたが、冒頭の部分は鮮やか。山本は読者からの励ましを最も大切にしていたことから直木賞すら辞退した。この作品を宮部みゆきや高田郁は読んでいて、彼の想いは後の作家たちに受け継がれている。時代小説の金字塔とは言い過ぎではない。2018/11/02
遥かなる想い
194
中学時代に読んで、涙が止まらなかった。人の本当の弱さ、強さが全て込められている。心やさしい・さぶと頭の回転の速い・栄二の二人の友情を綴りながら..最後のシーンを思い出すと、今でも じーんとくる。2010/05/18
kinkin
160
信じること、優しくなること、懸命になることがいかに大変で、しかし大切なことなのかをこの小説は教えてくれたと思う。また近頃よく耳にする絆や繋がるという言葉があまりにも薄っぺらな使われかたをしていることにも改めて気づいた。意固地で頑固な栄二に辛抱強く向き合うさぶ、カチカチの氷を時間をかけてゆっくり温めてゆく、さぶの友情。彼の名がタイトルになっていることにとても納得。無駄な描写を省きながらもその状況がビシビシ伝わってきた。とても好きな一冊になった。2015/10/03