出版社内容情報
切腹のマネをして一飯を乞うほどに落ちぶれた浪人が、藩の騒動にまきこまれ、それを手際よく片づけるまでをユーモラスに描いた『日日平安』。安政大獄によって死罪を命じられた橋本左内が死に直面して号泣するという“意外な”態度のなかに、武士道をこえた真実の人間像をさぐった『城中の霜』。ほかに『水戸梅譜』『しじみ河岸』『ほたる放生』など、ヒューマニズムあふれる名作全11編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
100
この11の短篇集は、これまでのものとは少々「趣」が違うぞ、と4作目の表題作あたりで感じた。山周さんの戦前・戦中・戦後にわたる全作品から選んだ、傑作揃いであることを読後に知った。スペースの関係上、表題作を紹介します。主人公の若侍が、町で出会った切腹の真似ごとで食いつなぐ浪人と組んで、城代家老を悪人どもから救い出す話です。周五郎さん得意の「武家モノ喜劇」だが、のんびり平和を目指す「日々平安」という表題と相まって秀作。折に触れて一話ずつ読み返したい短篇集です。2022/06/14
nakanaka
89
全11編から成る短編集。日々の食にも困る乞食同然の浪人がひょんなことから参謀となり藩の騒動を収めてしまう「日々平安」。とんとん拍子に上手く事が運ぶ展開や浪人・菅田平野の飄々とした振る舞いがユーモラスで読みやすい。男女の三角関係を描いた「ほたる放生」はラストのやるせなさも相まって一番印象的な作品だった。長年に渡って女郎勤めをさせられ利用される女と利用する悪い男、そしてそんな女を心から愛する男の複雑な関係。離れた方が良いに決まっているのに離れられないという男女の仲はよく話にあるが相変わらず理解に苦しむ。2020/08/05
ちゃいろ子
54
素晴らしい短編集。 どの話も世界に引き込まれる。 悲しい結末もあるが、最後まで作者の眼差しが温かく心が震える。 この物語の人々のこの後の人生も知りたい!!と思わせられる。 橋本左内のエピソードは、幕末の小説も読みたい!と。 2020/11/03
Book & Travel
53
先日の「青べか物語」に続いての山本周五郎。短編集だがこちらも素晴らしかった。冒頭、橋本左内の最期を描いた『城中の霜』から引き込まれる。うわべの潔さではなく、優れた人物ゆえに流す命を惜しむ涙に心打たれる。椿三十郎のモデルとなったコミカルな『日日平安』、青べかの世界を思い出す『しじみ河岸』などの短中編もいい。特に秀逸なのは、暗愚な藩主の密かな抵抗を描いた『若き日の摂津守』。どの作品も人間の描かれ方が深い印象で、逆境の中にある主人公の芯の強さが胸に残る。その辺の自己啓発本より得るものが多そうだ。2020/07/11
金吾
46
○山本周五郎さんの話の主人公は爽やかさと信念がある人が多いです。その中でも「水戸梅譜」の一家はすごい人だと感じました。「城中の霜」も良かったです。2023/09/27