出版社内容情報
自分が不義の子と知ったおしのは、淫蕩な母と相手の男たちを次々と殺す。息絶えた五人の男たちのそばには赤い椿の花びらが……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
89
小説でつづられる復讐譚の根は、深くて純粋だ。真面目に働き寂しく死んだ父に詫びるように、娘は遊び呆けた母と、関与した男どもに次々と報復する。本人は自首するつもりだったが、最後に自殺して果ててしまう。それで良かったと思えるのが不思議だ。重すぎる、責任感というか、復讐の感情に苦しめられてきたであろう主人公だ。最後くらい、逃がしてあげられて良かったと思う。2017/03/29
藤月はな(灯れ松明の火)
88
自分に流れる血を嫌悪し、憎い母親と同じ手を使って人を殺め続けたおしのちゃんの心中を思うと胸がギュッと苦しくなる。どんなに辛かった事だろう。直向きに生きることも許されず、なのに反省もしない人間の面汚し共によって大切な者を奪われ、己の名誉を汚してでしか、復讐することができないジレンマには『ジョン・ウィック チャプター2』の苦さを連想させます。そして男を信じ、裏切られた女達の哀しみも辛い。「何故、未来のある子がこうしなければならなかったのか。こんなのはおかしいじゃないか」。この小説にはそんな怒りが込められている2017/08/01
AICHAN
68
図書館本。これまで読んだ山本周五郎作品の中で最も面白かったかも。娘の復讐劇。敬愛する父をないがしろにしてきた家付きの娘・母と、その愛人たちへの怖い復習。父の死と、自分が父の子ではなく母の不義の子と知ってから復習が始まる。「この世には御定法で罰することのできない罪がある」…。そうだね。2019/09/13
GaGa
53
サスペンスタッチで進行していく本書は山本周五郎作品としては異色な長編であるといえる。解説で書かれていたが、確かに同一のテーマで対極に立つ作品が氏の名作「さぶ」なのであろうと思う。最後はいささかあっけない気がしないでもないが、最後の最後に自己に対して甘くなるのは人間の必定と思えば、それはそれでわからぬわけではない。ただ、この若い主人公が人としての掟をある意味幼い価値観で固め、人を殺める決断をするというのはテーマとしては実はかなり深刻だったりもする。まあ、純娯楽作として楽しむのが一番か。2011/02/13
けやき
49
十八歳の娘が父親への愛情のために、五人の男に復讐していきます。平打の銀のかんざしを左胸の下にうちこんで、赤い山椿の花びらを一枚おいて去っていくという…。なんか池波正太郎の「仕掛け人」シリーズのような、暗い話なのに、決してそれだけでは終わらない話でした。2016/10/14