出版社内容情報
閃光と爆音、戦場のリアル。倦怠と銃弾と孤独。戦場から戦争そのものを描く世界文学の到達点。
銃声が止んだ……虫が鳴く、猿が叫ぶ、黄昏のヴェトナムの森。その叫喚のなかで人はひっそり死んでゆく。誰も殺せず、誰も救えず、誰のためでもない、空と土の間を漂うしかない焦燥のリズムが亜熱帯アジアの匂いと響きと色のなかに漂う。孤独・不安・徒労・死――ヴェトナムの戦いを肌で感じた著者が、生の異相を果敢に凝視し、戦争の絶望とみにくさをえぐり出した書下ろし長編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
124
50年前ベトナム戦争と呼ばれる戦争があった。 Wikiによれば、1965年11月 - 1975年4月30日に及んだ戦いだった。 開高は取材のため南ベトナム政府軍に従軍し激しい戦闘に巻き込まれ奇跡的に生還した体験をベースにこの小説を書いたと言われている。 全ページ今にも張り裂けんばかりの緊張の連続で物語は進行する。 生と死は隣り合わせで存在し誰のための誰による戦いなのか理由は消滅し、孤独・不安・絶望・徒労・虚無・無毛・醜悪が彷徨しこれでもかと咆哮する。2021/03/21
ehirano1
103
「ベトナム戦記」で書ききれなかったことを本書にしたためたのか、それともその逆なのか定かではありませんが、「輝」と「闇」の対について、「輝の中における闇」なのか「闇の中における輝」なのか、それとも「黒輝りするような闇」なのか。受け取り方がいろいろあって楽しいです。2023/11/24
おくちゃん🌸柳緑花紅
99
とあるトーク番組で角田光代さんが一番ズルをしていない作品として本作をお薦めの一冊に挙げていたことから、手にした。ベトナムの現地で作者が見たもの、感じたもの、かいだにおい、不安と孤独、そして恐怖と絶望。戦争とは。。。開高健さんにしか書けないそのねっとりとした腐臭は現実のものだった。凄い作品を読んだ。チャンの言葉や思いが痛々しく切ない。けれど響いたこの感じを表現する術が私にはない。2016/07/14
まさにい
86
再読。この本を初めて読んだのは大学生の時であった。その当時の記憶では戦争の悲惨さと何もできない著者の苛立ちが書かれていると思って読んでいた。しかし再読では、南ヴェトナムの腐敗と共産主義の一元的恐怖政治、そして誰のための戦争で、だれが犠牲になるのか、だれの犠牲の上で誰が得をするのか、結局何の意味があったのかなど、混沌とした虚脱感が感じられた。ただ正義を主張できる資格のある戦争はないのだ、ということだけがいえるのだと思う。2016/07/04
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
76
とても骨太な作品。凄いのだけれど、自分の中で上手く消化しきれていないのが悔しい。ベトナム戦争の光と闇。帝国アメリカとベトナムゲリラの戦いという単純な図式でしかベトナム戦争を知らない私にとっては非常にショックな作品。退廃、混沌、市民の怒りと脅え、諦め、そしてねっとりとしたベトナムの空気を圧倒的な表現力で描いている。ベトナムに従軍記者として同行した開高氏だからこそ書けた作品ではないだろうか?ルポルタージュである「ベトナム戦記」も是非読んでみたい。★★★★2013/09/05