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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
508
初読みは『砂の女』と決めていたのに、手に入ったこちらから。主人公は探偵として、行方不明になった夫を探す依頼人のもとを訪ねるところから物語は始まる。おそらく契約期限の1週間かそこいらで完結するのだが、そこに込められた描写が圧巻。読み終わって依頼人の住む部屋の「レモン色のカーテン」がなぜか印象に残る。派手さはないが、なぜかクセになる作風だ。2023/03/25
ヴェネツィア
318
読み始めて早々に誰もがカフカを連想するだろう。まさに『城』の世界ではないかと。さらに読み進めるうちに、サミュエル・ベケットを想起するかもしれない。また、その徒労ゆえにカミュの『シーシュポスの神話』を、そして終盤のカフェのシーンではロブ=グリエの『嫉妬』などにも思いが及ぶ。これは、安倍公房がそうした作品に影響を受けたというよりも、むしろ彼らが同じ世紀を生きた作家だったことを物語る。社会や、対人の、さらには自己自身からさえも疎外された存在である「ぼく」。そして、追う者が追われる者であるように、「ぼく」は私だ。2015/03/04
遥かなる想い
122
失踪者を追跡しているうちに、自分を見失っていく興信所の男。社会における自分の立ち位置・存在の意味を問うという意味では安部公房のテーマを 具現化した作品。「大都会の砂漠」という言葉がよく似合う。2010/06/20
コットン
100
再読。昭和42年の刊行なので貨幣価値や言葉の違和感があるが、調査員が失踪人を探すというサスペンスタッチで展開されるので当時としては極上のスピード感があった展開だと思う。依頼人や依頼人の弟に対する調査員の思考が真剣なようでどこかユーモラスでやはり面白い!。人間が個として生活しているのではなく他者との関係性で生活が見えてくる事を逆説的に語っていると感じた。2014/06/19
metoo
81
失踪した夫を捜す依頼を受けた興信所に勤務するぼく。妻を訪ねて話を聞くも、失踪した手がかりが無い。それどころか、昼間からビールを飲みのらりくらりとして探しているのか否か、実に曖昧な態度だ。それを責めると、探してほしいのと訴えてくる。何度か訪ね話を聞くも妻の部屋のレモン色のカーテンが妙に心に残り落ち着かない。そのカーテンが嫌味な焦茶と白の縦縞のカーテンに変わった時に話は展開し始める。何を捜しているのか誰を捜しているのか自分を見失い始めてからの描写に唸る。繰り返し繰り返しの表現に強い酒を飲んだように目が回る。2016/11/24