出版社内容情報
ロシア辺境の小島に漂着した光太夫の、帝都ペテルブルグに至るシベリア横断行。新史料を駆使した新しい大黒屋光太夫像。
天明2年(1782)、伊勢白子浦を出帆した回米船・神昌丸は遠州灘で暴風雨に遭遇、舵を失い、七カ月後にアリューシャンの小島に漂着した。沖船頭・光太夫ら十七人の一行は、飢えと寒さに次々と倒れる。ロシア政府の意向で呼び寄せられたシベリアのイルクーツクでは、生存者はわずかに五人。熱い望郷の思いと、帰国への不屈の意志を貫いて、女帝エカテリナに帰国を請願するが……。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
419
先月、井上靖の『おろしあ国酔夢譚』を読んだので、今回は同一素材の吉村昭版を。ひじょうに大雑把な言い方をするならば、井上靖版がロマネスクな物語を指向していたとすれば、こちらはあくまでもリアリズムの範疇で語ろうとした歴史小説ということになるだろうか。同じようなエピソードを語るにしても、当然のことながら焦点の当て方も違っているし、主人公像も自ずと違ってくる。総じていえば、こちらの吉村昭版の方が彼らの置かれた状況に対して、より厳しく向き合っているといった感じだろうか。下巻が終わったところで、再検討したい。2021/07/03
yoshida
84
伊勢白子湾から江戸へ向かった船が暴風で漂流。大黒屋光太夫は生き延びた仲間とアリューシャン列島に漂着。ロシア人達の庇護により命を繋ぐ光太夫達。郷愁の思いを抱きつつ、極寒の環境下で徐々に仲間は逝く。日本へ帰りたい。光太夫達はロシアの役人達に嘆願し首都サンクトペテルブルクを目指す。かつて、光太夫達以前からロシアに漂着した人々はいた。彼等は帰国出来ず、ロシア女性と結婚し亡くなった。ロシアは漂着民を日本語学校の講師とし帰国はさせず。不凍港確保の為にも、日本との交渉で日本語の習得や国情を知る必要があった。波乱の作品。2023/08/12
タツ フカガワ
76
天明二年(1782)、船頭大黒屋光太夫ら17名が乗船する神昌丸は、藩米などを積んで伊勢白子浦から江戸に向かうが、遠州灘で嵐に遭遇して漂流。7か月後、ロシア領カムチャッカ東の孤島に漂着する。飢えと極寒のなかで次々と乗組員が死んでいくなか、光太夫は故郷への帰還を諦めない。帰国願書をロシア政府に出すが、かつて大坂の船や薩摩藩、南部藩の船がロシア領に漂着したものの誰一人帰国していないことを知る。光太夫が希望と絶望に翻弄されるところで下巻へ。2023/03/02
読特
70
急死に一生の目など遭ったことのない身としては、漂流の絶望感は想像を絶する。生き延びることのみが目的となる日々。陸の姿に恋焦がれる。いざ、たどり着いた島。そこはロシア領。命あることだけに感謝する。たとえ定住となってでも・・・とは、ならない。今度は、再び故郷の土地を踏むことを希う。東端の島から「シベリアのパリ」への流転。国の思惑があるとしても、出会う人々の親切さと情の深さには感心する。ロシアは近くて遠い国。過酷な旅に次々と命を落とす乗組者たち。生き残っている人の名前を確認し、下巻へと進める。2022/10/08
mondo
66
天明2年、伊勢白子浦を出帆した回米船、神昌丸は遠州灘で暴風雨に遭遇し、舵を失い、七か月後にアリューシャンの小島に漂着した。沖船頭の大黒屋光太夫と乗組員16人が遭遇する飢えと寒さの中で次々と亡くなっていく描写は手に汗を握るものがある。吉村昭の小説には「漂流」をテーマにした作品が幾つもあるが、スケールの大きさと庶民の細やかな描写から忍び寄るロシア政府の戦略や鎖国時代の終焉に向かう幕府の苦渋が伝わってくる。下巻が楽しみ。2020/12/15