内容説明
江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り長平はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927‐2006。東京日暮里生れ。学習院大学中退。1966(昭和41)年『星への旅』で太宰治賞を受賞。その後、ドキュメント作品に新境地を拓き『戦艦武蔵』等で菊池寛賞を受賞。以後、多彩な長編小説を次々に発表した。周到な取材と緻密な構成には定評がある。主な作品に『破獄』(読売文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『桜田門外ノ変』、『天狗争乱』(大佛次郎賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ehirano1
283
確かに「サバイバル譚」ではありますが、それ以上に「決して諦めず、絶望に屈せず、自ら幸せを見出し、(決断の)時を静かに待つ」を実践した長平の生き様は人生のお手本でさえあるのではないかと思いました。生き残るべくして生き残った長平。そこにはやはり理由がありましたね。2017/12/09
青乃108号
240
1人孤島に漂着し何年間かのサバイバル生活の末 命尽き果てる男、或いは数名でやはり孤島に漂着し、食料とてなく次々餓死して行く仲間の死体を食い生き長らえるが最後に1人、自害する男・・その様な話かなと思いながら読み始めたが、あにはからんや。これは死の誘惑に敢然と立ち向かい 気の遠くなるような時間をかけ知恵と勇気と忍耐と仲間を思う団結の力を結集し無人島から奇跡の生還を果たした男達の感動の物語だった。俺にしては驚異のスピードで一気に読み終え、結末に安堵すると共に我が身の置かれた環境に対する感謝の気持ちを新たにした。2021/08/19
ちび\\\\٩( 'ω' )و ////
213
1785年・江戸期。御蔵米を運搬に出た輸送船はシケに遭い、黒潮に乗ってしまい漂流。12日間の苦闘の末、絶海の火山島に漂着。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男達は次々と倒れていき、土佐の船乗りの長平はただ一人生き残って、、、。これはスゴイ。この小説がノンフィクション、実話が基になっていることに激しく感動した。実在の人物で、高知県香南市香我美町には彼の銅像もあるそうです。銅像があるということは、そう。帰還します。その漂流、漂着から帰還までの壮絶な生き様は是非読んで欲しい!というくらいお勧め!2018/12/06
こーた
206
人間、食べないと動けなくなって、衰弱しやがて死に至る。そう思っていた。でも、逆なんだ。鳥はたくさんいるからと、同じものばかり食べていると、まずまっ先に食欲がなくなる。食べればまた動けるのだが、その食べることができなくなる。現代なら、薬や医療で恢復することもできる。だが、漂い流れついた岩だらけの無人島では、適度に動き、バランスよく食べなければ、生きのびることはできない。バランスよく、といっても鳥の干物以外には、貝と蟹があるくらいだけど。そんな島で十二年半を過ごし、故国に帰ってきた男の、奇跡のような物語。2018/05/31
Nobu A
189
吉村昭著書2冊目。前著「関東大震災」はあまり良い印象はない。正直読み辛かった。今回は大御所たる由縁を垣間見たような気がする。江戸時代に漂流した一人の記録を基に丹念に構成された本著。集団力学を絡め、孤独になっていく様が現実的だと感じるのは緻密に描かれる人物行動や心理描写の為せる技。意志の強さだけでなく、食育と運動の大切さも暗示。展開が読めず頁を捲る手が止まらなかった。漢字も読めない長平の現実離れした発言「露命を繋いでおります」(p. 225)だけ残念。アフリカから筏で他大陸を目指した時代に思いを馳せた。2023/03/30