出版社内容情報
青年たちは何を想い散ったのか。史上最悪の戦術の犠牲となった特攻兵の清廉な魂を描く。昭和文学の金字塔。
太平洋戦争末期、南方諸島の日本軍が次々に玉砕し、本土決戦が叫ばれていた頃、海軍予備学生たちは特攻隊員として、空や海の果てに消えていった……。一特攻学徒兵吉野次郎の日記の形をとり、大空に散った彼ら若人たちの、生への執着と死の恐怖に身をもだえる真実の姿を描く。観念的イデオロギー的な従来の戦争小説にはのぞむことのできなかったリアリティを持つ問題作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
89
”直の逢は逢ひかつましじ石川に雲立ち渡れ見つつ偲ばむ”(万葉集・人麿) 万葉学徒が特攻隊として散っていく。 九体寺(浄瑠璃寺)で、あやめとかきつばたの違い云々、という部分が見たかったので。 静かな悲しみと力のある小説。 良いです2021/05/21
たいぱぱ
68
友達に頂いた本。佐和子の父、初読み。このタイトル、この表紙。宮川大輔じゃなくても「これ絶対泣くヤツやん!」と叫んじゃう。予感的中、やっぱり泣いた。京都大学在学中に召集された吉野の日記を中心に、海軍予備学生たちの苦悩を描く。実際に東大卒業後に海軍予備学生として従軍した阿川さんだから、これは小説の形をした本物の叫びだろう。仲間の死が、苦悩にみちながらも淡々と綴らている様が、余計に心に響く。「雲こそわが墓標」。我が子にそして若者たちに、そんな事を言わせる時代に絶対してはいけない。2019/03/26
かおりんご
62
小説。切なくなります。予備学生が特攻隊員として出撃するまでの日記。最初は反戦色が強かったのに、だんだんと染まっていく吉野。こうやって、死にに逝く若者が多かったのでしょうか。2014/11/22
kawa
41
沖縄戦の大本営方針は航空決戦。ところが、沖縄戦ノンフィクションの数々を読むと、さっぱりを飛んでこない飛行機に焦れる沖縄の人々の嘆きが印象的だった。本書は、そんななかで本土航空部隊の最前線で特攻強制が当たり前「明日こそは…」の思いのなか待機、焦せる学徒兵の真情を描く切なくも悲しいドラマ。覚悟と葛藤を繰り返す日々なのに、物量戦で読み違えて肝心な航空燃料の不足。生殺し状態で翻弄される彼らも気の毒。兵学校出身者と学徒兵の差別的扱い唖然。腐ったリーダーに将来を奪われた人々の恨みはいかばかりかだ。2025/04/07
金吾
40
◎海軍予備士官になった大学生の日記や手紙によりそれぞれの苦悩や葛藤、世情が明らかにされています。著者の経験もあり真に迫るものがありました。海兵に対する嫌悪感もかなりのものだなと感じました。2022/12/01