内容説明
“どのように美しくても、経済力のない女は虫のように無価値だ”医学界の重鎮だった亡父の後を継ぎ病院長となった32歳の戸谷信一は、熱心に患者を診療することもなく、経営に専心するでもない。病院の経営は苦しく、赤字は増えるばかりだが、彼は苦にしない。穴埋めの金は、女から絞り取ればいい…。色と欲のため、厚い病院の壁の中で計画される恐るべき完全犯罪。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909‐1992。小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷礼』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った
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感想・レビュー
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遥かなる想い
181
主人公 戸谷信一の人物造形が 松本清張らしい。 院長でありながら、医療にも 経営にも 関心を 持たず、赤字を女に出させて補填する …驚くほどに 魅力がない欲にまみれた 登場人物たちが織りなす物語… 槇村隆子に執着する戸谷信一が 染めていく悪事 …本当に わるいやつは誰なのか? 上巻は ひたすら 戸谷信一のあがきを描く。2019/02/05
hatayan
64
社会的地位のためだけに開業医を続ける医師の戸谷にとって、女性は病院の赤字を補填する金づる。複数の愛人を取り回すなかで意中の人と見定めた槇村隆子に求愛するも、瀬戸際で逃げられてなびかず。さらなるカネが必要と悟った戸谷は古い愛人の夫を殺して資産を巻き上げようと企みます。愛人の一人で殺人の共犯者でもある看護師の寺島トヨの蒼白い嫉妬が上巻の見どころ。行動を逐一監視する執念深さが災いして戸谷にとうとう殺されてしまいます。1961年の小説ながらも一気に読ませる展開。完全犯罪が暴かれる下巻が楽しみになってきました。2020/09/03
ぐうぐう
35
悪い奴が複数形になっている。この「ら」が重要だ。主人公の医師・戸谷は、二代目の典型といったボンボンで、女ったらしの利己主義な男として設定されている。彼が女を利用し、いかに金をせしめるかが上巻では描かれている。どれほど美しくても経済力のない女は虫のように無価値だと言い切る戸谷ではあるものの、胸中が語られる度に、その小心ぶりが徐々に露呈していく。利用される女もひと癖ある者ばかりで、私利私欲で行動している。やがて、戸谷と女達の欲は、殺人にまで発展するが、その右往左往は生粋の悪人には程遠い。(つづく)2018/07/09
matsu04
28
亡父から病院を受継いだ2代目院長の戸谷信一、女たらしのどうしよもない悪党である。気分が悪くなる。下見沢も得体が知れない。槙村隆子はいったい何を考えているのやら。寺島トヨも性悪だったが…、さてこの先どうなるのであろうか。下巻へ。(再読)2023/01/30
ユウユウ
28
謎はない。ただあるのは欲だけ。先日観た映画『太陽がいっぱい』『リプリー』を思い出す。下巻はどうなるのか楽しみだ。2020/05/08