新潮文庫
午後の曳航 (改版)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 202p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784101050157
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

出版社内容情報

少年は覗き穴から母の裸を凝視した――。大人の世界を許せない少年たち。その心理を克明に描く問題作。

船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実の挑戦であった。登は仲間とともに「自分達の未来の姿」を死刑に処すことで大人の世界に反撃する――。少年の透徹した観念の眼がえぐる傑作。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

217
再読。この小説のあちこちに、フランス文学の面影が垣間見える。冒頭の隙間から隣室を覗き見るシーンには、サロートやロブ・グリエらのヌーボー・ロマンの手法が、そして少年たちの一団からはコクトーの『恐るべき子供たち』が直ちに連想されるし、よくいわれるラディゲの影もあるかも知れない。さて、物語は横浜を舞台に展開する。そこで語られるのは、陸に上がった船乗りの陳腐さ、父親であることの陳腐さ、母親であることの陳腐さであり、それに気がつかない愚劣さである。三島はそれをいとも軽やかに、そして時には官能的に語っていくのだ。2012/09/02

200
読みやすくてあっという間に読了。こんな内容だったなんて衝撃でした。色んなところに張られたふせん、三島由紀夫は本当にうまいなぁと思います。猫のシーンは目を背けたくなりましたが三島由紀夫にかかると残酷な表現までもなぜだか美しいように感じます。首領が現代で言うところのサイコパス的な恐ろしさがあり恐い。賢いがゆえに自分のなかにあそこまでの思想を持つと止められないなぁと思います。2018/04/03

遥かなる想い

154
ここでも、竜二というたくましい肉体の船乗りを登場させている。相手が 自分の母であり、そこから芽生える敵意…少年の透徹したような目がよい。2010/06/12

mura_海竜

148
詩的な文体。最後、船がタグボートに曳かれていくように、塚崎竜二が子供たちに曳かれていく。船乗りの彼が未亡人の房子と夜を共に。房子の息子登の感情。小説全体の重く抑圧された感情表現、『厚い胸にひそむ死への憧れ』。『ふだんちっとも子供を構ってやれなかった良心の苛責を、結局子供から理解してもらいたがっている』。子供に『成長』を迫る親。子猫の解体シーンあり。ページ数多くないけれど深く拝読。金閣寺よりも入り込めた。2016/12/03

新地学@児童書病発動中

138
三島らしさのよく出た小説。母親が船乗りの男性と結婚を決意することによって、主人公の登は、冒険への憧れが汚されたと感じ、大人の世界に幻滅を感じる。登の目から見た海や船、港の描写が美しくて詩的な輝きを帯びており、読んでいて華麗な文体に酔うことができた。反対に大人の世界は、散文的な日常がシニカルに描かれており、探偵が出てくるところでは吹き出してしまった。テレビのメロドラマになりそうなプロットが奥行きのある文学作品になっているのは、三島の圧倒的な筆力と人物描写の確かさのせいだろう。2014/12/07

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