内容説明
私の心を束縛し、私の自由を許さない美しき親友のえり子。彼女の支配から逃れるため、私は麦生を愛し、彼の肉体を知ることで、少女期からの飛翔を遂げる「蝶々の纏足」。教室という牢獄の中で、生贄となり苛めをうける転校生の少女。少女は自分を辱めた同級生を、心の中でひとりずつ処刑し葬っていく「風葬の教室」。少女が女へと変身してゆく思春期の感性をリリカルに描いた3編を収録。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
218
この2作品は互いに補完し合うような位置にある。そして、どちらもそのタイトルのネーミングが素晴らしい。文学作品はかくありたいと思うくらいに。もちろん、「雪沼とその周辺」のように、一切の奇を衒うことのないタイトルにも、それはそれとしての魅力はある。しかし、やはりここでの山田詠美のセンスには脱帽だ。2つの物語はいずれも少女を主人公に、早熟であるが故の異和を描く。そこからの脱却のあり方は違うものの、失われた少女時代の郷愁をも漂わせる。もはや子供ではないが、大人でもない、山田詠美による絶妙のジュブナイル小説。2013/03/29
ろくせい@やまもとかねよし
214
「蝶々の纏足」「風葬の教室」「こぎつねこん」が集録。いずれも女の子を主人公とし、彼女らの意識を一人称で描写。彼女らの自己形成の過程で、意識の中の他者の認知や位置付けに思い悩み、しかし愉しむ様子が描かれる。決して好まざる実存を、閉ざされた意識のなかで精一杯の利己を発揮しながら解し、しかし一方で感じる虚脱のやり場を探す表現を淀みつつ流していく。主人公に言わせた「人間には大人と子供という分け方がある」は、区別すべきだと信じる人間の未熟さを象徴させていたのか。所詮他者と理解し合えるなど虚構に過ぎないと。 2019/07/04
優希
115
少女から女へと移り行く思春期の感性が独特の雰囲気で描かれていました。いかにも女子特有の世界がある中で、主人公の少女たちはドライにその世界を見ているような感じがしました。豊かな感受性と冷静な語り口が、妖艶で官能的です。言葉にできない感覚を鋭い言葉で表現しているのが身体と心に刺さるようでした。2015/11/02
ゆいまある
99
この所周囲の圧力に疲れていた。マスクつけなきゃダメ。検温しなきゃダメ、アルコールで消毒しなきゃダメ、寒くても換気しなきゃダメ、近づいちゃダメ。常に見張られて比較される。あー、うるさいなあ。そんな私に蝶々の纏足。友達が自分より美人でもお金持ちでもモテでも関係ない。惚れた男の腕の中で、お互いの体を貪りあっている間だけは、世界中のすべてのことがほんとどうでもいい。私は今の自分に満足しているが、時間と恋する気持ちだけは持て余す程あった、あの頃のあの瞬間に戻りたいと時々思う。山田詠美ピークの頃の宝石のひとつ。 2021/03/06
夜長月🌙
80
本書では3作が編まれてますが特に「蝶々の纏足」が感じ入りました。16にして人生を知り尽くした私。狭い世界に住む女子高生にとってsexとお酒と煙草を知ると全てを知った気になるかもしれません。しかし、彼女の精神性の高みはそういった世界とは別次元の所にありました。親友のえり子との関係はまさに親密でありかつ憎しみそのものでもありました。えり子の引き立て役として利用されているようでありながら実は彼女は一歩先んじていたのでしょう。それはえり子も承知の上だったのかもしれませんが……。2021/03/15