出版社内容情報
山田 詠美[ヤマダ エイミ]
著・文・その他
内容説明
しっとりとぼくの体にまとわりつく真っ赤な声の染み(赤)。夜明けの孤独を泳ぐようにかきわける青白い顔の女(青)。病んで忌まわしい白い心の病室に、鍵をかけ封印してきた女(白)。心の奥底に刻印されてしまった劣等感という名の黒子(黒)―。妄想、孤独、虚栄、倒錯、愛憎、嫉妬、再生…。金赤青紫白緑橙黄灰茶黒銀に偏光しながら、心のカンヴァスを妖しく彩る12色の短編タペストリー。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
217
12の掌編からなる小説集。いずれもが男女交互に語られる1人称語りである。全体を貫流するキー・コードはタイトルにある「色彩」。オリジナルは1991年の刊行だが、古さを微塵も感じさせないところは山田詠美の感覚の新しさゆえか。ただ、ここでの文体は、いささかお行儀が良すぎるようだ。山田詠美のお行儀が悪いと言いたいのではないが、彼女の小説の持つ奔放さとダイナミズムに欠けるのだ。もっとも、後半あたりからは「毒」が効いてきて、シニカルな味わいに仕上がっている。いずれにしても、純文学に大きく傾斜してゆく時期の作品だろう。2015/02/08
びす男
68
夏休み中に帰省した東京の飲み屋で夜をあかした時、お店の人に勧められた。「山田詠美なら、私はこれかなー」という感じで。短い休みも終わり明日からバタバタと仕事に戻るが、「夏休み」の象徴であり、締めくくりともなってくれた小説だった。生きる人の感情や、その奥底にうごめくものを、色で際立たせながら描いていく短編集だ。色は多くの場合、彼らの足を引っ張っているが、それは同時に彼らの強烈な人間くささでもある。明日から仕事をする傍ら、この人は何色かなと考えるのも面白いかも。2016/09/01
絹恵
41
私たちは色に囲まれて暮らすなかで、いつの間にか自身の色を見誤って、塗り潰してしまったり、薄め過ぎたりしてしまうこともあります。でも本当に怖いことは、色を失うことなのかもしれません。色の無い闇に絡め取られたら、大切な人の色も見えなくなってしまいます。Amy colorが色情を魅せるのなら、それぞれが魅せる色があって、そしてあなたの色に魅せられて。2017/05/01
藤月はな(灯れ松明の火)
32
短編ごとにモチーフとなった色紙が閉じられているのがお洒落です^^セフレを情欲の獣として扱う愉悦、女を知らない潔癖な少年に対する下げ済みの籠った憐みで男にしてやったことへの自負、テレフォン・セックスで繋がる孤独、自分を侮っていて優位に立っていた馬鹿な男の婚約者を寝取ることで復讐し、綺麗な心に惹かれながらも離れ、ヴァセリンを掬う男に本当の気持ちを暴かれる。どの短編も心に爪痕を立てるような作品ばかり。無性にスガシカオの「19才」や「AITAI」、「Call my name」、「秘密」、「甘い果実」などが聴きたい2013/04/25
Mayumi Hoshino
31
20年来、何度も読んでいる一冊。何でひとの尊厳を損ねようとする人間がいるんだろう。かねてから思っていたことだが、それを強く思わせる出来事があって、特に「雲の出産」を読み返したくて手に取った。悪意の正体を無理矢理解読すれば、自分より下に誰かを置けば安心できる人がいるからで、そんなのちっとも理解したくないのだけれど。そんな悪意や劣等感や自意識や嫉妬が、色彩を纏って姿をあらわす。今回もやはりザクザク抉られました。2016/05/22