内容説明
昭和30年代初頭、東京は上野駅前の団体旅館。子供のころから女中部屋で寝起きし、長じて番頭に納まった主人公が語る宿屋稼業の舞台裏。業界の符牒に始まり、お国による客の性質の違い、呼込みの手練手管…。美人おかみの飲み屋に集まる番頭仲間の奇妙な生態や、修学旅行の学生らが巻き起こす珍騒動を交えつつ、時代の波に飲み込まれていく老舗旅館の番頭たちの哀歓を描いた傑作ユーモア小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
131
旅館の番頭を主人公にした小説。昭和30年代が舞台。生まれていなかったのに懐かしさを感じながら読んだ。これまで読んだ井伏鱒二の小説の中で一番ユーモラスだった。結構際どいところもあるのだが、下品にならないのは引き締まった文章のせいだろうか。ずるがしこいながら変に律儀なところのある登場人物たちは、日本の庶民の本当の姿を反映していると思う。井伏鱒二はそんな庶民たちの生き様を、愛情を持って書き続けた作家だった。2014/03/23
じいじ
85
何十年ぶりの井伏小説です。でもこの作品は初読みです。この原作より先に、森繁久彌主演の映画を観ました。小説は、映画の印象とは違っていました。映画ほどドタバタしてなくて、ひとりで悦に入り心静かに楽しむことが出来ました(時々、我慢できずに笑い声がでましたが)。主人公は、好色家の駅前旅館のベテラン番頭です。中身は、ぜひご自身で読んで笑ってお楽しみください。ユーモア溢れる展開で、昭和の時代を懐かしく満喫させていただきました。これを機に、井伏鱒二のユーモア小説を読み返したくなりました。2023/09/18
Shoji
56
上野の駅前旅館の番頭さんのドタバタ活劇です。幼少の頃から住み込みの女中さんに翻弄されて育った主人公(番頭さん)は、何かにつけて才覚が長けています。いわゆる如才ない性分です。そんな番頭さんが織り成す旅館の裏舞台でのやりとりがとても面白く描かれています。昭和ノスタルジックに満ち溢れた作品です。まるで全編が白黒の活劇のようでした。2019/09/09
無花果
46
初めての井伏作品を読んだけど、面白い。旅館の番頭が戦後の庶民の日常を語るんだけど、お客さんや芸者の出身地での性格分析が面白い。決して気分を害することが書いてあるわけじゃなく、私の勝手な想像だけどその分析がなんとなく納得してしまう。私は静岡から西の出身だから、ふむふむ。いいことしか書いてないような・・・。宿の業界用語がまるで芸能用語(?)でそういう説明も新鮮だったなぁ。2014/07/13
白のヒメ
34
昭和三十年代の上野駅前の旅館の番頭の語りで綴られる、ユーモア小説。旅館の番頭同士が使う専門用語などが興味深く、江戸弁(?)の独特の言い回しは落語のような調子があって情景が浮かびやすい。まるでセピア色の映画を見ているような錯覚を覚えた。実際、森重久彌、フランキー堺などの出演で映画になっているんだって。さすがに世代が追い付かないので、見た事は無いけど雰囲気はぴったりだろうなと思う。2013/12/02