内容説明
眠りは死よりも愉快である。少くとも容易には違いあるまい―。鋭敏な頭脳と表現力を無尽に駆使し、世に溢れる偽善や欺瞞を嘲る。死に取り憑かれた鬼才の懐疑的な顔つきと厭世的な精神を鮮烈に伝えるアフォリズム(『侏儒の言葉』)。自らの人生を聖者キリストに重ね、感情を移入して自己の悲しさ、あるいは苦痛を訴える(『西方の人』)。自殺の直前に執筆された芥川文学の総決算。
著者等紹介
芥川龍之介[アクタガワリュウノスケ]
1892‐1927。東京生れ。東京帝大英文科卒。在学中から創作を始め、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。その後今昔物語などから材を取った王朝もの「羅生門」「芋粥」「薮の中」、中国の説話によった童話「杜子春」などを次々と発表、大正文壇の寵児となる。西欧の短編小説の手法・様式を完全に身に付け、東西の文献資料に材を仰ぎながら、自身の主題を見事に小説化した傑作を多数発表。’25(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェルナーの日記
131
芥川作品の中でも中期後半~最晩年に当たる作品。『蜘蛛の糸』とか、『地獄変』、『羅生門』のような、カミソリのような鋭敏さもつ鮮やかさを匂わせる作品や、『杜子春』、『トロッコ』のような牧歌的な雰囲気を醸しだした作品など写実的な提喩を使用せず、著者の文学に対する(自身の半生を含めた)自分観を強く打ちだした作品ではないだろうか。2016/03/16
新地学@児童書病発動中
78
ひさしぶりに読んだ芥川龍之介。隅々まで神経の行き届いた端正な文章が印象的。『西方の人』のキリストはジャーナリストという言葉にがっかり。神が人になって、人と同じように苦しんだことがキリスト教の魅力だと思う。そこを考えたらジャーナリストという言葉は焦点がずれている気がする。遠藤周作や三浦綾子と言った人たちにくらべたらキリスト教に対する理解は薄いようだ。それでも行間から作者の悲鳴や呻吟のようなものが伝わってきて痛々しい思いだった。当時の芥川龍之介の心情は十字架上のイエスの心情に案外近かったのかもしれない。2013/10/28
馨
76
西方の人と、続西方の人はキリストの話なのでややわかりづらかったです。前半の芥川節(?)は共感したり感心したり、大変楽しめました!皮肉混じりなところもあり、哲学も入り交じって笑えます。『小児』『武器』『地獄』が気に入っています。2014/12/06
Rin
60
伊坂幸太郎氏のチルドレンを読んでからずっと気になっていた「侏儒の言葉」。なんともひねくれていたり、なるほど、と思わされたり。良くわからないものもあったけれど、意外にも順調に読むことができた。「事実」の「彼らの最も知りたいのは愛とは何かということではない。キリストは私生児かどうかということである。」や「諸君」「親子」「兵卒」「天才」「軍事教育」が面白くも的を得ているように思えた。「可能」「良い人」はひねくれているようにも思える。何とも一言では表せない読後感。それでも、行きつ戻りつしながら読んだ一冊でした。2018/04/21
優希
56
自殺直前に書かれた作品になります。『西方のキリスト』が刺さりました。自らをキリストに重ね、自己の哀しさと苦痛を訴えていたからだと思います。芥川文学の総決算と言ってもいい作品集でした。2023/04/18