内容説明
白痴の女と火炎の中をのがれ、「生きるための、明日の希望がないから」女を捨てていくはりあいもなく、ただ今朝も太陽の光がそそぐだろうかと考える。戦後の混乱と頽廃の世相にさまよう人々の心に強く訴えかけた表題作など、自嘲的なアウトローの生活をくりひろげながら、「堕落論」の主張を作品化し、観念的私小説を創造してデカダン派と称される著者の代表作7編を収める。
著者等紹介
坂口安吾[サカグチアンゴ]
1906‐1955。新潟市生れ。1919(大正8)年県立新潟中学校に入学。’22年、東京の私立豊山中学校に編入。’26年東洋大学大学部印度哲学倫理学科に入学。アテネ・フランセに通い、ヴォルテールなどを愛読。’30(昭和5)年同校卒業後、同人誌「言葉」を創刊。’31年に「青い馬」に発表した短編「風博士」が牧野信一に激賞され、新進作家として認められる。戦後、『堕落論』『白痴』などで新文学の旗手として脚光を浴びる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ムッネニーク
160
6冊目『白痴』(坂口安吾 著、1948年12月、1996年6月 改版、新潮社) 坂口安吾の代表作「白痴」を含む、全7編が収録された短編集。 全ての作品に共通して描かれるのは堕落と肉欲。人間の生の本質を、男女のまぐわいを通して描き出そうとする安吾。明確な答えを読者に提示するタイプの小説は一つとしてない。執筆をしながら作者本人が自問自答を繰り返し、その答えを探求しているかのような印象を受ける作品が揃っている。 「火も爆弾も忘れて、おい俺達二人の一生の道はな、いつもこの道なのだよ」2023/02/12
ゴンゾウ@新潮部
126
私の好きな作家のひとりである太宰と人気を二分した坂口安吾の作品を初めて読んだ。戦中戦後の混乱期の真っ只中で、法秩序が崩壊する中で生きていく上で人間関係の原点である男と女の関係はどうあるべきかを問うている短編集。愛情は肉体的な結びつきかか精神的な結びつきか。愛の形とは?様々な角度から問いかけてくる。現代と共通するところもあり面白く読めた。男女の関係はいつの時代も変わらないということか。2014/10/22
優希
122
観念的でありながら私小説。そこにあるのは肉欲を欲しながらの人情でした。短篇集ですが、精神と肉体の対立を追求する思想がはっきりしており、どの作品にも似たような雰囲気が流れています。でも、そこに安吾の良さがあるのだと思います。退廃的な雰囲気であり肉欲にまみれた世界。破壊や虚無を受け入れ、妥協という感情を覆す。世の中を冷静且つ情熱的に見つめていたことが伺えます。安吾のブレない精神を感じさせられました。2016/01/18
青蓮
115
20代の若い頃に読んだきりだったので再読。初めて読んだ時は全然理解出来なかったけれど今回は朧気ながら少し掴めたような気がします。戦争が齎す圧倒的な破壊に美を感じ狂躁し、吹けば飛ぶ命、オール・オア・ナッシング、手に触れられる肉体だけが全て。その一方で心や愛情と言う物を諦め切れない。人間である事の限界を示しているように思う。安吾が描く女性は性的な事を含めて自由奔放で強かだ。男性の方が弱くて女々しい印象がある。「私は海をだきしめていたい」はタイトルも内容も美しく、お気に入り。悲しい色彩に彩られた作品だと感じた。2018/06/14
ehirano1
93
「白痴」の項、ダメだ、これはわからん・・・・・いつの日か再読します。2017/07/15