内容説明
ドイツの音楽大学で教鞭をとるぼくに、一枚のディスクが持ち込まれた。ブエノスアイレスで活動するというそのオルガニストの演奏は、超絶的な技巧に溢れ、天才の出現を予感させたのだが…。最上の音楽を奏でつづけるために神に叛いた青年、そして哀切な終焉。バッハのオルガン曲の旋律とともに、音楽に魅入られし者の悦びと悲しみを描出する第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。
著者等紹介
山之口洋[ヤマノグチヨウ]
1960(昭和35)年東京生れ。東京大学工学部卒業。松下電器産業株式会社などを経て、現在、明治大学講師。’98(平成10)年『オルガニスト』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞
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感想・レビュー
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ちょこまーぶる
67
読後に表現が難しいけどぞわ~っとした一冊でした。ファンタジーノベルは苦手分野なんですが、音楽が常に作品の中に流れていたので、最後まで楽しく読めましたね。音楽の説明やオルガンの解説などは少し難しさを感じたことは事実ですが、その難しさを超えて引き付ける話の展開は素晴らしいと感じました。天才オルガニストと彼を取り巻いている同僚や教授たちとの関係性に純粋なものを感じ、だからこそ天才オルガニストは「音楽になりたい」と思い、音楽になったんだと信じたいですね。機会あったらパイプオルガンのバッハをを聴きに行きたいな。2017/09/02
みこと
13
文庫本。表紙がイヤだったけど(笑)やっぱり我慢できなくて購入。ハードカバーとの違いを、解説を読んで初めて気付いたバカモノですが読んで納得。確かに全然違う物語になっている!オルガン聞きに教会に行きたくなる一冊。ヨーゼフに会いたい。2012/03/08
みこと
9
再読。単行本と合わせると3回目。敬虔なバッハの音楽に浸りたいときなど定期的に読みたくなる一冊。相変わらずのあなた誰ですかな表紙だけど…。 ドイツの黒い森でオルガンに、音楽になってしまったヨーゼフに会いに行きたい。そして敬虔なバッハの音楽に心ゆくまで浸りたい。 満点の星空のような煌めくバッハの音楽に身を浸し心ゆくまで味わいたい。解説を読んで初めて知った作者のバッハ遊び、私もやってみようかな。2020/10/07
tom
9
図書館で「オルガニスト」の文字を読み、オルガンを取り上げたユニークな音楽小説と思って手に取った。佐藤多佳子が音楽小説の中でオルガン少年を取り上げていたけれど、これも記憶に残る短編だった。ということで読み始めた。前半は、オルガンに取り付かれた少年がテーマ。この少年が交通事故に遭い、半身不随になったところから、本題が始まる。ここからは、実際のところオカルト話。「オルガニスト」ではなくって「オカルニスト」でした。オルガンの音が聞こえてこない。佐藤多佳子は、ほんとうに良い話を書いていたのだと、しみじみ実感。 2014/01/05
祥
9
オルガンほど信仰と深く結びついている楽器はないのだろう。 天に向かって吠えている神聖な獣。そして、ヨーゼフはそれを自在に操る猛獣使いのように見えた。 「オルガニストになれないなら、人間に戻りたいとも思わない。ぼくは音楽になりたい。」そう言ったヨーゼフが痛々しくて愛おしい。 初めは音楽学校を舞台にした青春小説だったのが、次第にサスペンス、SF、ファンタジーのていを帯びていく。でも、終息は限りなく音楽小説であり青春小説だった。最後のヨーゼフとテオの音楽での掛け合いには鳥肌が立った。2012/10/16