出版社内容情報
小説好きの五人兄妹が順々に書きついでいく物語のなかに、五人の性格の違いを浮き彫りにするという立体的で野心的な構成をもった「ろまん燈籠」。太平洋戦争突入の日の高揚と虚無感が交錯した心情を、夫とそれを眺める妻との画面から定着させた「新郎」「十二月八日」。日本全体が滅亡に向かってつき進んでいるなかで、曇りない目で文学と生活と戦時下の庶民の姿を見つめた16編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ykmmr (^_^)
160
太宰の、明暗混合の短編集。珍しいな…と思いつつ、戦時中の流れがあるからなのだろう。まずは『ろまん燈籠』。5人の兄妹が童話を連作する話だが、それぞれの『個性』が強く、それを太宰が1人1人を丁寧に描いていて、太宰文学としては健全でホッとする。暗の方の戦争文学では、『新郎』や『十二月八日』があり、真珠湾攻撃から太平洋戦争突入にかけての、メンタルの浮き沈みが描かれている。そのメンタルの浮き沈みは太平洋戦争の流れそのもので、宣戦布告時は勝てる希望に満ちていたが、ミッドウェーあたりから戦局悪化。2022/12/07
ゴンゾウ@新潮部
114
太平洋戦争に突入し言論統制が厳しくなった時代に書かれた作品群。私生活では安定していたからか暗さや厭世感を感じさせない。戦争の辛さを受け止めながらも文学に生命をかける決意がみなぎる。太宰の中でも最も充実してる。2016/10/23
nakanaka
88
十六の短編から成る短編集。日本が戦争へと向かっていく時期の作品ということもあって、随所に戦争への皮肉が混じっていますね。特に印象的だったのは「散華」です。太宰のもとに足繫く通っていた二人の若者の死について語っている内容です。太宰の飾らない素直な気持ちが描かれていて新たな一面が見れた気がします。また友人の結婚の世話をした「佳日」も良かったです。友人の妻となる女性の姉二人がそれぞれ未亡人と出征中の夫を待つ身なわけですが作中での健気さに胸打たれる思いでした。戦時中の女性の立場を秀逸に表現していると感じました。2018/11/30
いたろう
80
没後71年の桜桃忌、そして太宰生誕110年を前に再読。太宰の中期作品にして、昭和16〜19年の戦時中の短編16編。この文庫の表題作である「ろまん燈籠」を始め、戦時中という時代にありながら、明るい作品が書かれていることに救われる。「ろまん燈籠」は、洋画家・入江新之助の遺族の5人兄妹が、「愛と美について」に続いて、物語を連作する話。兄妹それぞれが特徴的で可笑しく。太宰が、入江家の空気に暗示を受けて、短編小説を書いたと書いていて、てっきり実在の人物かと思った洋画家・入江新之助とその家族は、太宰の創作であったか。2019/06/18
Willie the Wildcat
79
秀悦な人間模様で印象的な『誰』。真面目な本人の意図が、様々に解釈される様。奥様の”不精者”に、思わず吹き出す。『十二月八日』も、奥様の自然体が光る。『小さいアルバム』で散りばめられた氏のユーモアと、紡ぐ”次”への希望も温かい。前者では特に”羽子板市”の件。『禁酒の心』と『佳日』は、わかってんじゃん!と思わず心で叫ぶ。一方『鉄面皮』では、『実朝』の宣伝以上に、漱石氏の件に思わず苦笑い。いいじゃん、”真顔”で!なお、『みみずく通信』は『佐渡』のプロローグですね。1.5時間の氏の講演が唯々羨ましい。2018/10/06