出版社内容情報
一枚の絵が、世の中の仕組みを大きく覆す。
男は、どん詰まりの場所にいた。
二年半前の大学生だった娘の交通事故死。そこから精神の変調を来たし、二度の自殺未遂の隘路から抜け出せない妻。
あれを試すしかないのか‐‐。
かつて、高校受験に失敗した直後、失意のうちに目にした「道」というタイトルの一枚の絵。そして、そのあとに訪れた名状しがたい不思議な出来事。
40年ぶりにその絵を目にした男は、気が付けば、交通事故が愛娘に起こる直前の三軒茶屋の交差点にいた。
構想10年。満を持して放つ、アンストッパブル巨編。
内容説明
男は、どん詰まりの場所にいた。大学生だった娘の交通事故死。自殺未遂の隘路から抜け出せない妻。あれを試すしかないのか―。高校時代、失意のうちに目にした一枚の絵。そのあとに訪れた不可思議な出来事。40年ぶりにその絵の前に立った男は、気が付けば娘の交通事故が起こる直前の三軒茶屋の交差点にいた。
著者等紹介
白石一文[シライシカズフミ]
1958年福岡県生まれ。2000年『一瞬の光』でデビュー。2009年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
241
白石 一文は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書はタイトルからは想像出来ませんでしたが、骨太のパラレルワールド・タイムリープ家族ドラマの大作でした。ロシア人画家 ニコラ・ド・スタールの絵画作品『道』を観ると何か起きるでしょうか❓ https://shosetsu-maru.com/interviews/authors/kshiraishi_michi2022/08/09
パトラッシュ
180
タイムリープとパラレルワールドを利用できる男が娘を失う不幸から抜け出した先で、今度は妻の不倫と本当に愛する女性の死にぶつかる。周囲の幸不幸にも微妙な差異が生じ、前世では何ともなかったことが悩みや痛みの原因となってくる。またタイムパラドックスを強制排除するため、それまでいた世界に残された人が気になってしまう。望んでとはいえ時間と空間の複雑な混迷に翻弄されながら、針の穴ほどの隙間を辿っても全員を幸せにしようとあがく姿は痛々しい。人生の幸福と不幸は等量であり、人は選択肢の多さを利用できないと思い知らされるのだ。2022/09/06
いつでも母さん
166
はぁ・・疲れた。『あれ』が気になって読むが、こう言う話だったか。この世界も前の世界も、前の前の世界も…えぇぃ、もうなんでもありだな。そんな読後感。そりゃ時々、あの頃の世界に行きたいと強く思うけれど、ここでいい。色んな思いを飲み込んで、嚙み締めて…私はこの世界で生きて行くんだ。2022/07/20
とん大西
128
滅法面白い!話題の「ブラッシュアップライフ」とは一味違うパラレルなタイムリープにソワソワが止まらない。こちらは家族のあるべき姿を模索するビターな物語。娘の美雨は不慮の事故死。それを境に妻の渚は自殺未遂を繰返す鬱病に。溌剌と働いていた碧も姉渚の介護で摩耗。こんなはずじゃ…心身ともに行き詰まった功一郎が選択した道。あぁ、あぁ…。一度失くしたものを取り戻した喜悦。噛み締めたその先の新たな喪失。交わっていた世界線はすれ違い、傍らにもなかった世界線が交錯する。哀しみの総和がもたらす人の世の理不尽さ。呑まれましたゎ。2023/03/02
ウッディ
118
高校入試で失敗し、絶望に暮れ、試験会場にもう一度戻りたいと強く願った功一郎は、スタールの『道』という絵に吸い込まれるように時を遡ってから40年、愛娘を事故で失い、妻も精神を患った今、もう一度、「あれ」を試みる。命を救った娘と元気な妻がいるもう一つの世界にも、違った形の不幸はあり、自分が消失した前の世界が気になり始める。あの一瞬に戻って人生をやり直したいと思うことがあっても、それを実行に移そうとするほどの絶望を経験したことがない自分は、とても幸せなのだと思う。読み応え抜群の長編作品、面白かったです。2023/03/06