内容説明
第一次大戦が始まり、語り手は療養生活にはいる。戦時中のパリで、ヴェルデュラン夫人はサロンを開きつづけ、ドイツ贔屓になったシャルリュスの男色癖は嵩じて、すさまじいマゾヒズムの快楽に耽っている。戦後しばらくして、語り手はゲルマント大公夫人のパーティに赴く。ゲルマント邸の中庭にはいったとき、不揃いな敷石に足をとられてよろめいた感覚が、突如ヴェネツィアのサン・マルコ寺院の敷石を思い出させて、言いようもない喜びを覚える(第七篇1)。
著者等紹介
プルースト,マルセル[プルースト,マルセル][Proust,Marcel]
1871.7.10‐1922.11.18。フランスの作家。パリ近郊オートゥイユに生まれる。若い頃から社交界に出入りする一方で、文学を天職と見なして自分の書くべき主題を模索。いくつかの習作やラスキンの翻訳などを発表した後に、自伝的な小説という形で自分自身の探究を作品化する独自の方法に到達。その生涯のすべてを注ぎ込んだ大作『失われた時を求めて』により、20世紀の文学に世界的な規模で深い影響を与えた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
111
外的環境として見るならば、この巻はこれまでの11巻すべてを足したよりも大きいくらいだ。中でも最大のものは、執筆当初には予見されていなかった第1次大戦の勃発だろう。もっとも、パリまで1時間の位置にドイツ軍が迫る中でも、ヴェルデュラン夫人は連夜のようにパーティに明け暮れているし、シャルリュス氏の倒錯は、ソドムに加えてマゾヒズムに耽溺するといった有様なのだが。さて、この巻の終り近く、「私」は敷石につまずいたことから、次々と過去を想起して行く。まさしく「失われた時」の核心に近づいてきたのだ。いよいよ最終巻へ。2013/12/25
ケイ
99
語り手のアルベルチーヌに対する愛は、例えるならサンローランがドヌーブに感じたものと同一のように私には思える。美しさを愛でる視線で語る、他の者には渡したくない美しさは、本来異性に抱く愛に繋がるものではない。むしろ愛をこめて描写されるのは、ロベールだ。最初に彼を見かけた時の描写には、恋焦がれる様子が溢れんばかりだ。最初は女性を愛しながらも次第に男性を愛する美しい男は、プルースト自身の一部であり、彼が愛した男であるのかもしれない。そして、醜い愛欲に囚われたシャルリュスもまた作者の分身とも思える。2015/12/05
夜間飛行
65
ゲルマントへの道とスワン家への道は繋がっていた。サン・ルーはジルベルトと結婚し、ヴェルデュラン家は貴族を迎え入れる。だが、まさに貴族とブルジョワが結ばれたその時にこそ、まるで瘡が吹き出すようにソドムの行為の反社会性が露わになる。サン・ルーは《パリでワーグナーを聴くにはドイツ軍の到来が必要だ》と言って死地に赴き、シャルリュスは《情熱を込めて正しい立場を擁護する》フランスのばか者達を蔑み独軍の勝利を願う。鎖に縛られ鞭打たれる惨めな姿は崇高でさえあった。二人のソドミストにとって戦争だけが心の慰む場所だったのだ。2016/02/07
s-kozy
55
ついに「失われた時」の核心が見出されてきた。それが起きたのが中庭の敷石につまずいた時だったとはなぁ。2019/10/09
syaori
48
ドレフュス事件は過去となり、サロンは戦争の話題でもちきり。その戦争のために飛行機が日常的に空を飛び、始まりのコンブレーから何と遠くへ来たことか。しかしこの遠い場所で私は再び一杯のお茶やヴァントゥイユの曲がもたらすあの幸福に出合い、その謎をつきとめ「芸術作品」をつくることを決意する…。その背後に自分が殺したと感じている祖母とアルベルチーヌへの贖罪、そして「よいものも悪いものも」惜しみなく与えてくれたサン=ルーへの友情、自分をバルベックへ、今の人生へと導いたスワンへの敬愛などがあるように感じながら最終巻へ。2017/08/29