内容説明
国立図書館の一室で、スティーヴンは、文学者たちを相手に『ハムレット』論を展開する。一方、ブルームは食事をとりながら、モリーの情事を想像して苦悩する。酒場で、ユダヤ人嫌いの「市民」と口論した後、朝スティーヴンが歩いた浜辺にやってきたブルームは、若い娘ガーティの下着に欲情し、モリー、娘ミリーについて、思いをめぐらす。時刻は、午後9時になろうとしている。
著者等紹介
ジョイス,ジェイムズ[ジョイス,ジェイムズ][Joyce,James Augustine Aloysius]
1882.2.2‐1941.1.13。アイルランドのダブリン郊外で出生。20世紀を代表する作家であると同時に世界文学史上の巨星。幼児からカトリック系の教育を受け、ユニヴァーシティ・コレッジ・ダブリンを卒業。1904年秋、ノーラ・バーナクルを伴って、ヨーロッパへ。以後、貧困のうちにトリエステ、パリなど各地を漂泊し、チューリヒに死す
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感想・レビュー
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ケイ
124
スティーヴィンの章が面白いのは、ジョイスのオタクぶり〜シェイクスピアやアリストテレスやら〜に付き合わされるのが楽しいから。ふと現れるマッキントッシュの男が気になる。ブルーノは損な役回りを押し付けられたものだ。妻の不貞を防ごうとしないのは、怖いもの見たさか臆病か。そしてまた若い女の子を見て自慰行為にふける中年男でもあり…。シャイロックにも程遠い。ジョイスは彼を通して何を描こうとしているのだろう。解説において、アイルランドとスペインを結びつける暴挙。個人の評でお願いしたく、こういところに混ぜこまないで欲しい。2017/09/05
のっち♬
81
10章はダブリン市民たちの生態が重層的に描かれており、書き手のマクロな視点が感じられる。11章では酒場の声や音などの聴覚イメージを執拗に反復して発展させる表現が独創的で、その手法はまさにカノンやフーガなどの音楽形式を彷彿させる、最後の一音は著者の嗜好なのだろう。妻の浮気を想像して悩むブルームには著者の体験が色濃く反映されていそうだ。13章では思春期の少女を描いた感傷的で上品ぶった文体模倣が目立っているが、ノスタルジックな美文調からブルームの下卑た独白に移行する落差が凄まじい。彼の行動も彼女の反応も驚き。2021/01/09
zirou1984
40
ジョイスは己の文体を自由自在に変化させる超絶技巧を駆使しつつ、20世紀のダブリンに紀元前の神話オデュッセウスを再構築する。10年にも及ぶ物語を1904年6月16日の18時間に圧縮し、冒険譚の世界は平凡な日常に矮小化される。英雄オデュッセイアの魂はダブリン市内を徘徊し妻の浮気に心悩ます中年オヤジ・ブルームに憑依し、かくして神話の興奮は現代の悲哀と倦怠に置き換えられた。それにしても音楽のピリオドに合わせては屁を捻り、見知らぬ女性のスカートの中に興奮しては野外オナニーをかますブルームさん、相当ゲスいです。2013/07/27
SIGERU
26
さしも難解な『ユリシーズ』も、本書の「ナウシカア」に至って、一條の光がさした。読みやすいのだ。ところがこれが、当時流行した女性向け感傷小説の文体模倣、お遊びだと云うのだから、文豪ジョイスも大概な人だ。ナウシカアは、宮崎駿『風の谷のナウシカ』の造形にも霊感を与えた、神話上の女性。ホメロス作品においては、オデュセウスを救った女性という設定である。本書のナウシカアこと金髪の美少女ガーティ・マクダウエルも、中年男のブルーム(の欲情)を救った。神話のナウシカアは脚が速いが、ガーティは脚が不自由な設定。倒錯感がある。2021/06/21
chanvesa
26
「9.スキュレとカリュブディス」のシェイクスピア自身を投影した議論はわけがわからない。こういう議論は結局あらさがしの集積でマニアックな内容になってしまうので、関心がおきない。「12.キュクロプス」のげっぷ乱発とべらんめい調の市民の語り口は面白いもものヘイトスピーチ的な反ユダヤ主義は読んでいて嫌な気分になる。訴訟文書のパロディやら、何かの文体のまね、言葉遊び的なだじゃれが続く。書いているジョイス当人は面白いかもしれないけど、読んでいる方は反応のしようがなくなる。固有名詞のオンパレードにもぐったりする。2018/04/21