感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
367
オスカルによるガラスの破壊は、退行した自己防衛の本能の発露なのだろう。しかし、それは防衛であると同時に攻撃的な行為でもあった。そもそも彼が3歳で成長をとめてしまい、太鼓によってのみ世界との繋がりを持っているのだが、その太鼓と歌は破壊の衝動をも内包している。先の巻では母親が亡くなり、この巻でもまた二人の父親をはじめ何人もが命を落とす。それはオスカルによるものではないにせよ、そこに不吉な影が射すこともまた事実である。一方でクルトの誕生も描かれるが、それもまた半ば以上はオスカルの妄想のなせるわざである。2020/01/21
藤月はな(灯れ松明の火)
40
生物学上の父(母の不倫相手)や戸籍上の父(母の結婚相手)を悪意を持って間接的に殺し、生き延びるためにナチ親衛隊へキリストと信じ込ませるオスカル。彼がナチ親衛隊を唆して教会へ行き、キリスト像へ悪罵を吐きかける場面は強烈過ぎます。しかし、一番、ぞっとしたのは、マリアへの寄生とも取れる恋を自覚し、石を打たれてから3歳児から120cmへ急激に成長する場面。成長痛も伴わないで、骨や筋細胞がボキュリ、グシュリ、グニャと変形しながら伸びていくようなイメージで読んでいたので気持ち悪かったです。2014/12/27
塩崎ツトム
19
このカスパル・ハウザーは己が虚構の人間だと意識している。だからこその異常なまでの多弁であり、さらには彼の人格は分裂している。戦争とは大人を死者に、子供を無理矢理大人にしてしまう。「肉体の悪魔」、「火垂るの墓」「ジョジョ・ラビット」…。しかし身体の伸長を拒んだオスカルは、歴史の狂言回しにしかなれない! そして多弁なだけのマーキュリーに、平時の安住の地なんて、あるはずないのだが。2023/05/21
原玉幸子
19
青年の成長を描く「教養小説」との分類もありますが、本作品は「大河小説」とのこと。徐々に且つ深く感情移入する長編小説が好み(短編小説は苦手)の私に大嵌まりです。自身に死に直面しても生きることとは一見関係無いことに執着する人間や、主人公オスカルの「私が父親なのだと確信した」との感性が常識としては異常であっても、精神世界としては成り立つと思えるところに、この小説の怖ろしさと真実味・迫真性があります。戦争を含めて「時代」であったのでしょうが、作者の「世界の切り取り方」に戦慄を覚えます。(◎2022年・秋)2022/08/19
松風
19
オスカルの決断にビックリ。てか、そんなのアリですかw2015/03/19