内容説明
飛騨から信濃へ、峠道をたどる旅の僧が、山中の一軒家で一夜の宿を乞う。その家には美しい女と、その亭主が住んでいた。近くの流れに案内された僧は、女に体を洗われ、花びらに包まれたような気分になる。その夜、僧のまわりを無数の獣の気配がとりかこむが…。表題作『高野聖』など妖しく美しい幻想の世界を描いた5篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
91
表題作の「高野聖」が印象に残りました。坊さんに語らせると普通とは何か違った印象になります。その『何か』の正体は「聖」対「エロス」、「聖」対「ファンタジー」という『対』ではないかと思いました。その意味で素晴らしい技巧が味わえる作品ではないかと思います。2022/12/30
優希
60
とても美しい5編の短篇ですね。特に表題作『高野聖』が素晴らしいです。行間から香る官能的で耽美な世界に酔わずにはいられません。妖艶なエロティシズムが艶やかでミステリアスにすら感じます。果たして高野聖の世界は現実か幻なのか。この曖昧な世界が彼岸と此岸を結ぶ虚ろな美へと昇華させていると感じました。全体的にエロスと色気の漂う作品ばかりで、その幻想的な美の世界に浸っている感覚が好きでした。文章も気品があり、素晴らしい作品だと思います。2014/07/21
依空
58
文語体に苦戦し、慣れるまで苦労して読みました。巻末に収録されている解説を読むことで、ようやくストーリーを掴むことが出来たかと思います。文章は難解でしたが、幻想的で、艶めかしく、背筋がぞくりとする程の凄まじい雰囲気が、文字の一つ一つから立ち昇ってくるようでした。特に「外科室」の激情、「高野聖」の強烈な山蛭のシーンと妖婦の河原での描写、「眉かくしの霊」のじわじわと寒気が来る展開とラストは、映像が浮かびそうなほどでした。「眉かくしの霊」はラストに関しては、あの場面で終わることで怖さが尾を引くのでしょうね。2017/06/07
さっとる◎
44
妖しく美しい、その評価に違わぬ世界に誘われる五篇。古さに慣れずわずか10ページ20ページの作品に手こずりながら読み進めましたが、それでもいつの間にか入り込む異界。成り行きがあやふやなのに入り込んだ異界の幻想的な空気が伝わる。妖しさにどこかゾッとして読み終わる。「外科室」のクライマックスラスト1文が本当に素晴らしく、息をするのも忘れ時間が止まったかと思った。それからやっぱり代表作「高野聖」。旅の僧が蛭との死闘(?笑)の末辿り着いた歪で美しい理想郷。水浴シーンが何ともエロティック。古きよき日本語ならではだ。2016/01/26
Mishima
39
表題作「高野聖」に期待して読んだが、「外科室」「眉かくしの霊」が、これを凌駕した。山には、なにかが潜んでいる、と体感することは珍しくない。幼少の頃から、山に親しんでいる生活をしてきた身である。が、時として、ぞくっとする空気を感じる、よもや頸になにかが触れたのでは、と錯覚を超えた感覚を持つことすらある。そんな「山の魔」を連想して読んだ。「外科室」は20ページという限られた中に織り込まれた濃密なドラマに唖然とする。あっという間の死から放出する女の情念。これを22歳で上梓とは。ほか「星あかり」「海の使者」収録。2018/09/06