内容説明
岩と氷の王国アルプス。その壮麗な美しさは、人々を挑戦へと駆りたてる。山に生命を賭け、垂直の岩壁に身をさらしながら春青を生きぬいた名クライマーが、グランド・ジョラス、マッターホルン、アイガーなど、アルプスの6つの北壁登行の苦闘と歓喜を詩情溢れる筆致で描く山岳文学の名著。山岳文学大賞受賞。
目次
グランド・ジョラスの北壁
ピッツ・バディレの北壁
ドリュの北壁
マッターホルンの北壁
チマ・グランデ・ディ・ラヴァレドの北壁
アイガーの北壁(アイガーワンド)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なる
30
マッターホルンやアイガー北壁など、人間を拒絶しているとしか思えないアルプス山脈の六つの北壁を登った伝説のアルピニストであるレビュファ。彼の書いた登頂記録でもあり山岳文学の先駆けともいわれている作品で、当初は『六つの壁』という題名を出版社から推薦されていたのがこのタイトルにこだわったのは、高い山であるがゆえにビバークして夜を徹するからこその「星」と、悪天候に常に見舞われる「嵐」から。確かに単なる記録ではなく文学的要素を含んでいる。ただ、あまりにも直訳で平易な文章と不親切な用語解説で読みにくいのが難点。2022/07/05
あきあかね
29
「一日の美しい終末。最後の陽光の恩恵に浴しているのは、この高所にいるわたしたちだけだ。···天に向かってそそり立つピラミッドの頂上で、かよわい人間のわたしたちは、地球が眠りにつく場面に立ち会っている。それから地球とともに夜へ身をゆだねる。」 「すると、生命が停止したような死のひとときがやってくる。かすかにきこえる物音は、ささやきにすぎない。しかし、このためらいの後で、いま一つの生がはじまる。一つ一つ、星が大空を裂いて姿をみせ、親しみのこもった無数の星は、きらめきながら大空に君臨する。」⇒2020/04/05
イロハニ
13
機知と詩情の香辛料をたっぷり利かせ描出させた欧州最難関六北壁登攀記。各、危険と死の匂いを放つ舞台でありその陰惨を描くもそれは人間が逃避すべき対象ではなく勝ちとるべき地平線だという意志を読み手に浸潤させる筆力は並ではない!著者は職業山岳ガイドで訳者は仏文学者で登山家の近藤等。両氏は現にプロとその登山客の間柄でもある。故にか岩の肌理…星の移ろい…来襲する嵐…それら細部が原文の彩色濁すことなく訳出されたと思う。それを読める読者は真に幸福だ。全ての登攀が大戦直後という時代背景も欧州の文化の底深さとして驚嘆しうる。2022/09/23
しんこい
12
中学生のころ、星にのばされたザイルという映画のポスターを見て以来ずっと気になっていました。アイガー、マッターホルン、グランドジョラスの三大北壁以外にもアルプスのまさに岸壁を登攀、雨にうたれオーバーハングを乗り越え墜落しかかり、と全く簡単ではないことをやっているのに、作者には少しの恐怖も苦痛もないようですね。装備一つとっても今とは大違いでしょうし。2016/12/29
frog
6
簡潔な文章なのに深い味わいを与える登山文学の名著。仲間たちへの温かな友情と信頼感、厳しい地形や気象をさらりと美しく表現していて、何故か若山牧水『みなかみ紀行』を思い出させます。特にアイガー北壁の手に汗握る登攀記が素晴らしく、スリリングな展開と著者のポジティヴな思考がたまらなく魅力的です。2010/05/30