内容説明
蛇屋に里子に出された少女の幼い頃の記憶は、すべて幻だったのか、物語と夢の記憶のはざまにたゆたう表題作「ゆめこ縮緬」。挿絵画家と軍人の若い妻の戯れを濃密なイメージで描き出す「青火童女」。惚れた男を慕って女の黒髪がまとわりつく、生者と死者の怪しの恋を綴る「文月の使者」他、大正から昭和初期を舞台に、官能と禁忌の中に咲く、美しくて怖い物語八編。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年1月2日生まれ。東京女子大中退。85年『壁―旅芝居殺人事件』で日本推理作家協会賞、86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞を受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
162
皆川博子さん3作目。初短編集。 圧倒的にあやしくくらく、倒錯的で美しく、ぞっとするほどこわい。玉虫の厨子にする為に指を強請り口に含む美しい少女。井戸に落つる指。中洲の病院にとらわれる患者たち、からむ髪。日舞の家元に産まれながら戸籍のない少女、軍人の家にとぶしずかな血潮。どこかしら戦争の影が忍びよったり、生と死や正常と狂気の境めが曖昧だったり。 短編ではより皆川さんの世界観が濃縮されているようで、あまりにも酔わされて少しずつ読んだ。2019/01/19
まこみん
82
大正浪漫の雰囲気と幻想、官能的で奇想繚乱の世界。微妙に絡まった時の流れ。大川の中洲で今も彼らが密やかに棲み、彼女達が焚き火をしているかもしれない。2016/12/23
カフカ
62
大正から昭和初期を舞台に描かれた八篇からなる幻想譚。「指は、あげましたよ」の出だしから、ゾクゾクと…これは好きだな…と直感。いずれの話もじっとりと陰鬱な空気が流れ、夏の夜に相応しい物語。夢なのか現実なのか、生者なのか死者なのか…この曖昧さと皆川さんの紡ぐ文章とが相まって、怖いのだけどうっとりする程美しくて。特に好みだったのは「文月の使者」と「ゆめこ縮緬」。でもどの話もぼんやりしていて、正直全てを理解できた気はしない…また時間を置いて再読したいな。ともあれ妖しげで美しく幻想的な皆川ワールド、堪能出来ました。2022/07/04
*maru*
32
皆川作品18冊目。短編集(全8話)。「指は、あげましたよ」この魅力的な一文で始まる、大正から昭和初期を舞台とした物語。愛するが故に…想いの深さで人の存在すらも不確実なものとなり、不安や混乱を誘発し、眩惑の世界へ読者は誘われる。生と死。夢うつつ。禁忌。皆川氏の魔術にかかればどんな人生も極彩色に彩られ、死者と生者が入り乱れる幻想的な異空間への憧れが募る。やはりすべて素晴らしいが『桔梗闇』が特に好き。このざわざわする余韻が堪りません。ラストの表題作『ゆめこ縮緬』は皆川さんならではの落とし方。痺れます。2017/06/26
mii22.
31
この短篇集には、とろけそうに幻惑され、柔らかな唇に吸い込まれるように肌を差し出せばそっと噛まれた所から毒が身体中を廻り麻痺させられます。生者と死者、あやかし、白昼夢、見世物小屋、蛇屋、中洲...大正から昭和初期が舞台のせいか出てくるモチーフがすべて妖しく、官能的です。作中に引用されている詩や物語が、さらにこの短篇集の世界を鮮やかに彩り美しいです。「ゆめこ縮緬」のラストは見事でした。2015/02/02