内容説明
その男、羽生丈二。伝説の単独登攀者にして、死なせたパートナーへの罪障感に苦しむ男。羽生が目指しているのは、前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂だった。生物の生存を許さぬ8000メートルを越える高所での吐息も凍る登攀が開始される。人はなぜ、山に攀るのか?永遠のテーマに、いま答えが提示される。柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
223
『山になぜ上るのか?』という何でもない問には想像以上の深い深い哲学的な且つ極限状態でしか得ることができない『解』が導き出されたのは圧巻でした。そして、感情移入ではなくどういう訳か『環境移入』し過ぎて何だか終始酸素不足を感じた読書となりましたwww。こんな酸素不足になった読書は初めてでしたが、凄い疑似体験ではなかったのかと思います。2019/10/12
HoneyBear
216
これは凄い小説に出会った。壮絶な、濃い生き方。奥深くを揺さぶられる小説。
ぷう蔵
196
命を賭してまでの登頂。どうしてそこまでして行くのか。悪い言い方をすれば自己満足なのであろうが、登ったものだけしか得られない何かがきっとあるはずである。日本人は山を信仰の対象としてきた。山頂に神社を祀り参拝のために毎年登る。この感覚は世界共通なのだろうか。信仰はどうあれ、人々は山の頂を目指す。やはり神はいるのだ、あの頂きにも、この頂きにも。その神に導かれ登って行く、神に選ばれし者、羽生。果たして彼は、神々に受け入れられたのであろうか、見捨てられたのであろうか。でも、やはり自宅に帰るまでが登山なのだ!2016/07/28
レアル
164
この本は素晴らしいし、感動した!上巻では共感できなかった羽生の生き方も読み終える頃にはすごくかっこよく思えたし、山を登るのに理由なんていらないんだろう!そして最後は涙なしには読めなかった。エベレストという過酷な山に挑む男たちの情熱を見事なくらい描き切ったこの作品。良い作品だった。2013/06/02
修一郎
160
生きることと山に登ることが同義の男たち,ヒリヒリした極限状態の中でのみ生きていると実感できる男の物語だ。8,000メートル級の山々での成否を決めるのは低酸素状態への対応力,冬季無酸素単独エベレスト登攀シーンは濃密で容赦のない書きっぷりだ。エベレストのアタックルートや難関の氷壁が頭に浮かんでしまうほどだ。知ったかぶった軽い山岳小説がかすんでしまうほどの息詰まる描写だった。女の話も入っているけどまぁ付けたし。高山病になりながらも現地取材を繰り返し,描き尽くす,を貫いた夢枕獏先生にまいったというしかない。2016/01/10