内容説明
秘峰八ケ嶽を舞台に、姫をめぐる兄と弟の愛の確執と惨酷な結末が、果てもなく続く一族の血塗られた歴史の発端だった。憎悪は憎悪を呼び、復讐は復讐を生む。山窩族と水狐族に分れて争う末裔たちの呪詛と怨嗟の叫びは、時空を越え、いま大江戸の夜に凄然と谺する。近代劇作の手法もとりこんだ卓抜な構想力と無類の空想力で妖美幻想の世界を拓き、国枝三大伝奇長編の一つと評される豊饒な成果。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イコ
4
序盤の物語が膨らんでいく感じが好き、完結しているけど、恨みが無い終わらせ方でスッキリした感じは無いかな。ただ現代と繋がるような終わり方は良かったです。時代を考えたらかなり異色作品ではある。2020/12/10
西村章
2
『神州纐纈城』や『蔦葛木曾桟』と比べると、本作の場合は途中までどんどん増殖してゆく登場人物とエピソードが、第四部の「江戸市中狂乱の巻」で妙に収束してしまうのがじつにもったいない。もっと野放図に畳みようがなくなるほど大風呂敷を広げてほしかった気もする。でも、ケレン味たっぷりで突拍子もない嘘の大伽藍が無窮迷路のように広がってゆく国枝大伝奇は、やっぱりいつ読んでも無類に面白い。「漸次(だんだん)」とか「明瞭(はっき)り」なんて独特の言葉遣いも、雰囲気があってとてもいい。2020/04/09
ぞるば
2
電子版。なんじゃこりゃ、というかんじ。はじめのほうと、講談調のところなどは面白かった。話が進めば進むほど適当でいい加減ですが、ノリがいいといえばそうかな。主人公は考えてみればなかなかの悲劇的美青年ですが、まったく共感できなかった。うーん、でもこのでたらめでフリーダムで、「主人公は善玉だから勝つの!」なかんじが、昔のお話のいい所といえばそうなのかもしれない。2017/08/19
辺野錠
2
平安時代の話からどんどん広がっていくなあと思ったら元々そういう作風だったのね。確かにこのノリはジャズのアドリブっぽい。2013/05/31
甘木
1
平安時代を生きた橘宗介と久田姫の因縁。時を経て、それは窩人と水孤族との種族の争いへと発展する。そして、幼い頃の記憶をなくした鏡葉之助は数奇な運命のもと、この争いに巻き込まれていく。湖底で生首をくわえる久田の姥、話す歯形の痣、人面疽、人を生き埋めにした茴香畑。妖しく奇怪な描写の数々は、読んでるだけでもぞわぞわする。お露と葉之助の話があまり膨らまなかったのが残念。話を広げすぎると、纐纈城みたく未完になってたんだろうけども。結局白法師が黒幕みたく思えるのは私だけか?2012/09/05