内容説明
僕の首の後ろにも、他人よりもちょっと濃いめの産毛が生まれたときから生えていて、これが物心ついたころから僕の抱えた爆弾だったのだけれど、十三歳になってすぐのある晩、自分の鎖骨をこすっていて、そこにいつもとは違う感触を感じてうつむいて、首元に赤くて長くてコリコリと固い明らかな鬣の発芽を確かめたとき、それまでは祖父と父と同じように背中に負ぶっているつもりだった爆弾が、気づけば僕だけ胸の上にも置かれていたと知ってショックで、その上さらにその導火線にとうとう火が点けられたのを実感して、僕は絶望した。―福井県・西暁の中学生、獅見朋成雄から立ち上がる神話的世界。ついに王太郎がその真価を顕し始めた。ゼロ年代デビュー、「ゼロの波の新人」の第一走者が放つ、これぞ最強の純文学。
著者等紹介
舞城王太郎[マイジョウオウタロウ]
1973年、福井生まれ。2001年、『煙か土か食い物 Smoke,Soil or Sacrifices』にて第19回メフィスト賞を受賞、デビューする。2003年、『阿修羅ガール』にて第16回三島由紀夫賞を受賞
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感想・レビュー
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とうゆ
15
何とも不思議な話だった。背中にたてがみを生やし、獣の様な運動能力を持った成雄と、変人だけど常識的な大寛との奇妙な友達関係が面白い。また、擬声語をふんだんに使うことによって成雄の感覚の鋭さを表す、文章表現もさすがだ。2015/02/01
もるもる
6
こんなに背中の毛と擬音にこだわった本を他に知らない2009/08/12
ふう
5
不思議な世界へ入っていく少年のお話。 舞城・ファンタジー。 オノマトペがすばらしい。宮沢賢治の作品を連想させる。 成雄はこの世界を脱出した後、なにになるのか?2013/01/26
PSV
5
千と千尋と王太郎の神隠し。 75点
KASAO
4
SPEEDBOY!を先に読んでいて、同名の主人公が出てきたので、走りに憑りつかれた少年の話かと思ったけど、最終的にカニバリズムの話だった。独特のシチュエーションと芸術美を取り入れることで人は忌み嫌う食人さえも楽しみ、味わうことができるという概念が存在する山の中の料亭を舞台にしたお話。それなりに長いお話だったけど、著者が言いたいことは物語の佳境に集約されている印象。究極を求める行為への節度と加減を言いたかったんだと思う。2013/01/17