内容説明
晩夏酷暑の或る日、郊外の風癲病院の門をひとりの青年がくぐる。青年の名は三輪与志、当病院の若き精神病医と自己意識の飛躍をめぐって議論になり、真向う対立する。三輪与志の渇し求める“虚体”とは何か。三輪家四兄弟がそれぞれのめざす窮極の“革命”を語る『死霊』の世界。全宇宙における“存在”の秘密を生涯かけて追究した傑作。序曲にあたる一章から三章までを収録。日本文学大賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
55
学校の課題図書。観念的すぎて筋がわからない。というか筋があるのかないのかもわからない・・・。読了後解説本を読んで補うしかないですね。Ⅱ巻目へ。2017/03/19
chanvesa
30
高校生の時に見たETV特集以来、文庫化されてから数回、第一巻の途中で挫折したが、今回何とか読み終えた。「虚体」「自同律の不快」と言ったアンチノミーはテーゼとして呻かれる。思想、思索はこれから先、展開がある状態で第三章が閉じられている気がする。ETV特集でも、夢へのこだわりについて埴谷さんが語っていた記憶があるが、第三章の終わりの描写は夢に出てきそうな雰囲気だ。でも全般的にモノトーンだし、十二支の時計とか、首猛夫、総じて無気味な印象だ。三輪与志の存在の苦悩は理性における理解を越え、感覚的である気もする。2015/01/09
傘緑
25
「…考えられる凡てを考えるのさ。それが青春時代の特徴だが……考えてはならぬ考えにはまりこむことが最も魅惑的なのだよ」 埴谷雄高のすべては『不合理ゆえに吾信ず』のバリエーションだと妄想している私にとって、『死霊』は埴谷雄高という謎の最大の注釈本であり、ドストエフスキーの『罪と罰』や神林長平の『七胴落とし』と並ぶ、青春という傷みの死と鎮魂を描いた青春小説である(そのため最後が「誕生日おめでとう」)。そしてねんねと筒袖、高志の報われない愛の間を揺れ動く、ひとつの愛のはじまりを歌う恋愛小説だとも妄想する。ぷふい。2016/09/14
田氏
23
難解といわれる本だけど、実は文章そのものは喉ごしツルツルで読みやすい。ただ、出てくる人物が総じて、思弁的なことをヌラヌラとまくし立てるものだから、そんな評になるのもわかる。しかしそれも、埴谷の思想と哲学の極端化・曖昧化・神秘化の結晶なのだとあらかじめ心得て臨めば、そこいらの哲学書よりもよほど読みやすい。言ってみれば対話篇みたいなものだろうか。登場人物の口を借りて行われるのは、「存在」への挑戦。いちおうにも小説と銘打ったものがこんなにも思索の垂れ流しでもいいのかという驚きと、この先に控えている冒険への期待。2022/04/14
長谷川透
22
nowhere,nobodyの場所から出発した文学。人間のいる場所は現実の世界には違いないが、現実世界にいる人間の中で肥大化した思想、頭の中で増幅していく思念の渦巻きが現実の世界に漏れ出した時、非現実――死霊の世界が現実の世界を支配し始める。思念は渦巻きうねり溢れだす。秩序のない思念の奔流はやがて革命という思想に纏まり始めるが、その纏まりさえ虚構のものだから何か一貫した理念があるわけでもない。この小説から何か意味らしものを汲み取ろうとすると心が折れるだけだ。思念の奔流に身を任せ、踊らされながら読むのが吉。2013/03/27