内容説明
京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる転末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」。明治九年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和十九年没した破滅型私小説作家の“栄光と哀しみ”。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
62
女性への執着心が強すぎるわりに扱いが酷かったり金銭にルーズだったりするので、奥さんが逃げてしまうのも理解できる気がした。私小説ということだが、小説に仕立てるには一定の計算が必要なので、一見むき出しの感情表現も理性的に考えられて書かれたものなのだろうとは思う。2017/01/10
みねたか
17
3つの短編。情痴文学の名作らしい「黒髪」。しかし、まだまだ抑制された筆致で、京都のしっとりとした美しさも描かれる。何より会話の間がいい。続編はいよいよ凄いらしいので、そのうち読んでみたい。「別れたる妻に送る手紙」と「疑惑」では、男の醜態をこれでもかと晒すが、憎めない。出て行った妻の家を深夜覗き見に行く場面は、ぐいぐい引き込まれた。2016/06/24
出世八五郎
16
【黒髪】遊女に不思議な魅力があり一切喋らない。やっと喋ったと思ったら『もう帰ります』・・・そんな京の遊女を恋い慕う男の話ですが、謎の駆け引きが続く中い~ところで終わってしまう。【別れたる妻に送る手紙】【疑惑】あなたが友人の失恋話を慰めに聞いてやったら、それが延々ねちねちとしていて、うんざりするか爆笑してしまうようなお話。ストーカー的な内容だが本来ストーカーは犯罪に結びつくから問題であり、現代人に足りない社会常識を無視した情熱がここにある。くどさ西村謙太の逆という印象。共に続編未収録で収録先の岩波文庫絶版。2015/05/13
fseigojp
13
黒髪 おもしろい これ絶対ほかに男がいるとわかるのは非当事者のゆえ2015/07/30
ももみず
13
別れた奥さんへの手紙に「遊女に惚れたよ。あの娘は他の遊女と違って、純粋で聡明な女だよ。でも、貢いでいたら他に男がいることが発覚したよ。親友にも寝取られたよ☆そんなことがあったけど、お前のことは今でも大切に思ってるよ」的なことを堂々と書き付ける厚顔無恥さ!そりゃ妻にも捨てられるし、遊女にも選ばれないわけだ。しかもこの男、自分を棚に上げて、他の人間のことは見下しておる。しかしまあ、崇高とか文学的とかいう免罪符を使わずに、こんなみっともない姿を大衆に晒す秋江先生の徹底ぶり、むしろ清々しくて、尊敬してしまうのです2014/09/22