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内容説明
義経が牛若といって鞍馬にあったころ、同じ源氏の血をうけて、十八公麿(後の親鸞)は生れた。平家全盛の世である。落ちぶれ藤家の倅として育った彼は、平家一門のだだっ子寿童丸の思うままの乱暴をうけた。彼は親鸞に生涯つきまとう悪鬼である。9歳で得度を許された親鸞の最初の法名は範宴。師の慈円僧正が新座主となる叡山へのぼった範宴を待っていたのは、俗界以上の汚濁であった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kiyoshi Utsugi
35
今まで親鸞は、鎌倉時代に生まれて、鎌倉時代に亡くなった人だと思っていたのですが、間違っていたようです。😅 1173年で、1192年よりも20年近く前のことで、平清盛が権勢をふるっていた頃に生まれてました。 小さい頃の名前は、十八公麿(まつまろ)。父親は日野有範。母親はいろんな説があるようで、ここでは源義家の嫡男である義親の息女 吉光御前としています。 9歳で青蓮院に入って、その後、延暦寺というところは、全く知らなかったので、一つ賢くなりました。 親鸞に関する本を読むようになったのも歳をとったからなのか…2023/02/13
シュラフ
19
宗教のことについてあまり知識がないが、この親鸞というお坊さんは現代日本で最大の信者を抱える浄土真宗の宗祖ということである。母は源義家の孫娘にあたり、親鸞は頼朝の甥になるということらしい。この第1巻は、時代は平家全盛の頃から平家滅亡という激動の頃、親鸞の誕生から比叡山で法名を範宴として過ごす多感な青年時代である。俗世間から逃れて修行の地である比叡山には来たものの、そこで待っていたは僧たちの嫉妬・欲望・傲慢に満ちた俗世間以上の汚濁の世界であった。新しいものに対して古いものが誹謗してくる。若き範宴は思い悩む。2015/07/02
nbhd
18
フィクションの具合がうまくって良い。親鸞さんは不明な点多数の存在として知られてるけど、それを逆手にとって、わずかな史実を手がかりに巧妙なフィクションを描いている。そのために国民的作家がとった方法は、まず「時代」を描くことだった。親鸞さんが生まれたのは鹿ケ谷の陰謀とか頼政挙兵とか平家滅亡一歩手前の戦乱の時代、いじめっ子の平家ボーイズや、人として腐っている延暦寺の面々の登場にワクワク。そして、比叡山を降りた若き親鸞は「男と女」「銭」「悪」との遭遇を重ねていく。第2巻では童貞親鸞が肉欲問題に突入する予感。2016/05/07
肉尊
12
十八公麿(親鸞)の誕生から、9歳で慈円僧正に得度を許され範宴として成長していく10代の頃の様子が生き生きと描かれている。十八公麿(まつまろ)の十八公は合わせて「松」という字になり、弥陀の18の本願とも重なる大層縁起のいい幼名である。幼少期の親鸞は謎が多く、その分小説家の力量が試されるところだが、さすが吉川氏。仏教経論だけを学ぶだけでは世が理解できぬことを知らしめてくれるようなイベントをうまく配置してくれている。そして何かとつきまとう寿童丸。悪の権化とも呼べる彼をいかにいなせるか今後の範宴の活躍が楽しみだ。2021/02/16
みのくま
11
今月20日に閉館した「吉川英治記念館」に行った。背後の山峰に抱かれるように、古い純和風な家屋が佇んでいた。吉川英治は、この記念館が象徴するかの如く、古風で前時代的な作家である。彼の作品に出てくるヒーローは、ことごとく求道的で純粋で正義を信じているし、ヒロインも良妻賢母的な日陰の女である。もちろん、円熟期に書かれた「新・平家物語」や「私本太平記」はもっと複雑なことをやっているが、本書ではまだ前述の作品よりは単純である。しかし、では、いま本書を読むことに意味はないかといえばそうではない。その所以を書くとする。2019/03/24