内容説明
あくまで私小説に徹し、自己の真実を徹底して表現し、事実の奥底にある非現実の世界にまで探索を深め、人間の内面・外界の全域を含み込む、新境地を拓いた、“私”の求道者・藤枝静男の「私小説」を超えた独自世界。芸術選奨『空気頭』、谷崎賞『田紳有楽』両受賞作を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
中玉ケビン砂糖
72
、(ご覧のコメントは藤枝静男評で間違いありませんが、多くをある映画評に割いているのでご注意ください、なぜなら、藤枝静男をダシにして、ただ映画の話をしたいだけだからです、ブログでやれよとも言いたくなりますが、読メの伝播率のほうが結局高いのでここに書きます)、先日、ゴダールの新作(!)3D(!)映画をみるためにシネスイッチ銀座まで行った、ゴダールの3D映画とは、まるでSFじゃないか、素晴らしいじゃないか、という感覚でみ始めたら、「ゴダールの映画」が3Dだった! 何を言っているかわからないとは思うが2015/02/10
HANA
68
「田紳有楽」「空気頭」の二編を収録。「田紳有楽」の方は骨董収集家の日常を描いたものかと思いきや、視点が突如湯飲みに移り金魚との恋や子を生す話が始まり、皿は空を飛びチベットの思い出を語る。再び骨董収集家の方に話が移るととんでもない方向に話は広がり…。人や焼き物神仏が混ざり合う様やその会話の様子は何となく森見登美彦を連想させ、何とも楽しい一編。「空気頭」の方も妻との闘病記で鬱々とした話が続く…と思いきや後半こちらも何とも言えぬ理屈が展開し始めて、何ともはや。読んでいると頭の中をかき回されるような心地もする。2020/10/11
syaori
53
グイ吞みと金魚が子づくりし、抹茶茶碗が人間に化けるシュールさが素敵な『田紳有楽』に出てくるのは偽物ばかり。抹茶茶碗は偽物として作られているし、空飛ぶ丼鉢も丹波と言いながら中国産。弥勒の化身という彼らの主人だって、彼が衆生を救う56億年後なんて地球は膨張した太陽の中だと言われてしまう始末。そして『空気頭』の「私」が得た禅の悟りにも似た感覚も人工的につくりだしたもの。そんな彼らの営みは少し滑稽で悲しい。でも「鏡へ写せば」右も左、偽も真だからなのか、彼らが辿りつく境地は自由で恍惚感に満ち、まぶしく映りました。2018/06/27
キジネコ
50
そもそも真て何?贋て何?て話。お釈迦さんと何か悶着があった弥勒さんが人間界に。その弥勒さん、怪しげなもぐりの骨董屋に身をやつして五十六億七千万年後の末法の世の中に説法する その日までどう暮らしたもんか?と考えあぐねてる…じわじわ人間臭くなって考える事も今一つありがたくない。小さな水たまりの様な池の底に贋物を沈め真贋を超える日を横目に眺める日々。水の中では生物無生物の則を越えて動かぬはずの陶器が化け術を身に着けたり、手足が生えて遊泳飛行したり… この世界への強烈な風刺…?けったいな物語。あの弘美ちゃん推薦。2019/07/23
なる
43
「空気頭」なんという奇妙な幻想小説か。病床の妻と向き合う冒頭から主人公の男が持つ感情の欠落がクローズアップされ、決して幸せでない生い立ちから戦争を介したことでさらに重く暗く落ち込んで行くストーリー展開に、絶望の予感がひしひしと漂うのかと感じていた矢先、途中で文体がガラリと変容し、突然にして題名の意味が提示されて唖然とする。やがて主人公の変態的な精神性が暴走しはじめ、世界がぐるりと裏がえる。著者の碩学で埋め尽くされ何を読まされているのかがわからなくなるという不可思議な読書体験に、頭が空気で満たされてしまう。2022/01/03