内容説明
美しい港町、アカシヤ香る大連。そこに生れ育った彼は敗戦とともに故郷を喪失した。心に巣喰う癒し難い欠落感、平穏な日々の只中で埋めることのできない空洞。青春、憂鬱、愛、死。果てない郷愁を籠めて、青春の大連を清冽に描く芥川賞受賞の表題作及び、6編を収録。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
193
第62回(1969年)芥川賞。 昔の大連への想いをノスタルジックに 綴った旅情的な作品である。 繰り返される大連の思い出は、当時の 人々の共通の感覚だったのだろうか? まるで、恋人を語るように 大連を 語り続ける感覚…単純だが、澄んだ印象の 作品だった。2017/08/26
kaizen@名古屋de朝活読書会
99
【芥川賞】にせアカシアの方が、アカシアより見栄えが良い。大連が、日本より故郷だと思える。占拠した土地で生まれまたは育った人が、どのような思いを持つのかの一端が分かる。戦争に若い時を過ごした主人公の思いが伝わる。 2014/02/22
まーくん
83
詩人清岡卓行は46歳にして愛する妻を喪い、その心の隙間を埋めるかのように小説に挑む。最初の小説「朝の悲しみ」では失われてしまった、二人の子供を交えた彼女との何気ない日常の生活を綴る。表題作「アカシアの大連」では戦局急を告げる中、迫りくる死の影から逃れるように東京での学生生活を中断、生まれ故郷大連に帰り着き、やがて敗戦を迎える。死の影から解き放され、人生への希望を得た美しい街での妻との出会い。他三作を加えた五部作で一つの青春とその後の生き様を追う。”彼”と三人称で呼びながら著者の半生を辿る自伝的小説。2020/05/18
ヴェネツィア
77
大連には行ったこともないし、ましてやそこで一定期間を過ごしたことはない。にもかかわらず、そのタイトルと小説は私に激しいまでの郷愁を喚起する。きっと神戸のような坂の街なのだろう。港から続く街の中心部には異国(ロシア)風の堅牢な石造りの建物が並んでいる。そして、高台へと続く並木にはアカシヤの花の濃密な香りが。小説は、主人公の思索的なモノローグに終始する。したがって、語りには斬新なところはない。小説的な仮構にも乏しいと言っていいだろう。しかし、その一方でこの作品がそこに独特の世界を構成していることもまた確かだ。2013/07/27
たま
56
満州が舞台の『地図と拳』を読んで。69年発表70年芥川賞。初読時(70年代?)は良い印象だった。「彼」が戦争末期にクラシックのレコードを聴き、フランスの詩を読み、大連の町で思索に耽るのが新鮮だったのだと思う。村上春樹『風の歌を聴け』はまだこの10年後。今読み返すと、彼、それ等の代名詞、…のだ、…のであったの繰り返しがくどく、内容も興味深いところもあるが、おしなべて観念的、感傷的で少しがっかりした。併読の「朝の悲しみ」は女性の描写が古く、滑稽小説なのに作者が滑稽さに気づいていない不思議な滑稽小説と思う。 2022/12/16