内容説明
イスラームとは何か。マホメットとは誰か?根源的な謎に答えるため著者はマホメット出現以前のアラビアの異教的文化状況から説き起す。沙漠を吹暴する烈風、蒼天に縺れて光る星屑、厳しくも美しい自然に生きる剽悍不覇の男たちの人生像と世界像。魅力つきぬこの前イスラーム的文化パラダイムに解体を迫る激烈な意志としてマホメットは出現する。今なお世界史を揺がし続ける沙漠の宗教の誕生を、詩情豊かに描ききる名著の中の名著。
目次
沙漠の騎士道
享楽と苦渋
マホメットの出現
預言者召命
メッカの預言者
メディナの預言者
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
48
マホメッド(ムハンマド)の思想とその変遷についての概説書。若き井筒敏彦が、マホメッドが誕生した時代と社会、誕生後の軌跡について情熱的な筆致で綴る。マホメット出現以前のアラビアの状況、即ち『コーラン』の教える律法秩序を人々がまだ全然知らなかった「無道時代」を起点にベドウィンたちの世界観、死生観を、当時の抒情詩他を通して描き、厳しい自然に生きる極めて現実的、且つ刹那的で剽悍不羇の男たちの肖像を浮かび上がらせている。イスラム教始祖マホメットの入門書として興味深く読ませて頂いた。2018/01/21
nbhd
18
なんとなく手にとった、井筒俊彦。前半では「無道時代」と呼ばれるマホメット(ムハンマド)以前のアラビアの習俗(戦に明け暮れる現実主義的生活)が描かれ、後半で預言者かつ「政治家」であるマホメット像が書かれている。なかでも、マホメット召命のエピソードが劇的だ。イスラム史家の言葉を孫引きすると…「ある晩、わし(マホメット)が睡んでいると、突然天使ガブリエルが布衣を手にして現れて、『読誦せよ!』と命じた」そうだ。1400年余りのひとつの巨大な歴史のはじまりが「読誦せよ!」なのが興味をそそる。2016/10/15
YO)))
14
イスラームの教義が如何なる文脈のもとに誕生したか、そしてそれが如何ほどにラディカルなものであったかを説明付けるために、預言者登場以前の「無道時代」に多くの紙幅が割かれている。砂漠の民ベドウィンの、強力な血族・部族主義と、鋭敏な感覚を必要とするがゆえの現世・現実主義は、彼らを精神的な袋小路に追い込み、刹那的な享楽に耽らせていた。そこに切実な終末観的感覚を携えて現れたマホメットの教え、審判の日に於いて神への畏敬の念の深さのみが問われるのだというそれは、強烈なカウンターでありつつも、2023/08/06
白義
12
青春の血潮が沸き立つような名文で描かれたマホメット伝、イスラーム誕生記。イスラーム以前の、血縁原理のハードボイルドな無道時代と、それをラディカルに否定し普遍宗教を打ち立てるマホメットとの対比がただただ鮮やか。たった100ページでマホメットの生涯を、歴史文学のように魅力的に描いた、まさに井筒俊彦ならではの名著と言える。途中に出てくる詩の翻訳もい上手く、素晴らしい小著だ2012/10/11
アイナ
10
イスラム圏の島を旅した時ちょうど断食月で、ガイドの人はつばも吐き出していました。ダンテが「神曲」の中であれほど憎んだマホメット。ストイックなイメージが強いイスラム教ですが、マホメットはどんな人物だったのだろう。この本はイスラムについての古典中の古典のようですが、マホメット以前の享楽的で破滅的なイスラム世界についてよく分かります。平和で穏やかな日本に暮らしていると、想像も出来ないような過酷な砂漠の世界で民を導くには、一神教にせざるを得なかったのかもしれません。2017/02/05