内容説明
権力をめぐって対峙するカトリック教会と“共和派”の狭間で、一般市民は、聖職者は、女性たちは何を考え、どう行動したか。『レ・ミゼラブル』などの小説や歴史学文献を読み解きながら、市民社会の成熟してゆくさまを目に見える風景として描き出す。
目次
第1章 ヴィクトル・ユゴーを読みながら(文化遺産としての『レ・ミゼラブル』;ユゴーは神を信じていたか ほか)
第2章 制度と信仰(「市民」どあることの崇高な意味;ナポレオンの「コンコルダート」 ほか)
第3章 「共和政」を体現した男(第三共和政の成立;ジュール・フェリーと環境としての宗教 ほか)
第4章 カトリック教会は共和国の敵か(噴出する反教権主義;コングレガシオンへの「宣戦布告」 ほか)
著者等紹介
工藤庸子[クドウヨウコ]
1944年浦和生まれ、東京大学文学部卒業。現在、放送大学教授・東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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うたまる
2
「政教分離に伴う課題は、宗教を弾圧することでもなく、国民の教会離れを促進することでもなく、じつはキリスト教信仰に代わるものを共和国が発明することにあった」……魅力的なタイトルだが、実はフランスに限った話。だからかなり限定的、特殊的、観念的。当然ながらアイデアはその国の歴史の影響を受けるので、王政と共和政の間を行きつ戻りつしながら”ライシテ”というフランス流政教分離として結実することになった。市民、道徳、尊厳などと併せ、これはフランスの勝ち得た誇るべき成果なんだけど、彼らの嫌った教条的な宗教臭も残っている。2018/01/02
yagian
2
フランス文学者である著者が、19世紀フランスにおける「ライシテ」「共和制」成立の過程を、文学作品を通して考察する。これらの概念、制度の解説の多くが「できあがったもの」として説明するが、実際には歴史的な産物であり、それゆえ、アメリカ、イギリス、ドイツの民主主義政体と宗教の関係と異なるフランス独自のものであることがわかる。イスラームとライシテの関係が問題化してるが、両者ともに歴史的に変化しうる、ということだと思う。それが、厳しく険しい道であっても。2016/02/07
seimiya
2
フランスの政教分離について文学作品や政治家の演説を引用しながら考察している。レミゼラブルを読んでも宗教的な背景が理解できなくてモヤモヤしていたのだけど、本書によって少しだけ解消した。なかなか複雑な構図。人権宣言のポスターに修道女マザーテレサの写真。ヨーロッパ人からすると違和感のある組み合わせらしい。一つの宗教が国教だと他宗教の信者の権利を抑圧する。だから国政と宗教は切り離す。そうすることで全ての人々の権利を平等に保障する。宗教を切り離すことで勝ち取った権利。2013/02/08
Hepatica nobilis
2
政教分離を表すライシテがフランス社会でどう定着していったか。歴史書の他に当時の文学や演説を引用している。女性とカトリック、コングレガシオンというサブテーマも重なる。感情的になりやすいテーマ立てにもかかわらず、意外に冷静なスタンスを貫いていて貴重。地味だが良い企画である。2012/09/08
いっち〜
1
予備知識なしで読んだけど、前半は理解が追い付かず大変だった。ただ、半分過ぎて政教分離と市民活動の話が出てきてからはなかなか興味深かった。今や民主国家の常識に近い政教分離の原則も確立から100年ちょっとしか経ってないのが驚きだし、そこに至るまでフランスだけでもカトリック教会や国内の政治家から、多くの市民や教会関係者まで多くの人たちの関わっていて時代が動く際の大きな流れを感じた。市民活動についても触れられているけど、日本ではこうした歴史がない中で市民活動だけを持ち込んだとしたらなかなか一般化しないのも頷ける2019/06/30