内容説明
西欧人の見た「残虐な征服者」は、西欧をはるかにこえる先進国だった。羊飼いでも大臣になれる開放的な社会。キリスト教世界で迫害されたユダヤ難民を受け入れた宗教的寛容性。多民族・多宗教の超大国を支えた「柔らかい専制」の秘密に迫る。
目次
序 「トルコの脅威」の虚像
1 戦士集団から国家へ
2 コンスタンティノープルの攻防
3 イスラム=共存の知恵
4 イスラム的世界帝国への道
5 「壮麗者」スレイマンの光輝
6 「組織の帝国」の伝説
7 人材吸収・養成のシステム
8 超大国の曲り角
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
51
西洋史はヨーロッパ側からのバイアスがかかって伝わっている場合が多い。多角的に考察することが必要となってくる。2016/03/02
skunk_c
49
オスマン帝国の統治システムを「柔らかい専制」と捉える視点からの歴史。同じ著者の『オスマン帝国の解体』に比べ、表現が優しく図版も多いためとても読みやすい。スルタンと大宰相の関係や、初期の拡大の様相、隣国イランとの関係など歴史書としても面白く、同時に統治システムについては、従前のヨーロッパから見た視点(例えばマックス・ヴェーバー)を批判しながら、オスマンの優位性を語る。そしてそれが崩れ始めるところまでが本書の守備範囲。『オスマン帝国の解体』が理論重視の印象なので、本書の筆致での解体史を是非ものして欲しい。2019/12/04
崩紫サロメ
33
何度目かの再読。青春の1冊。鈴木氏の提唱した「柔らかい専制」という概念は、現在では歴史教科書などにも用いられている。「柔らかい専制」とは、オスマン帝国の統治とは”ゆるやかな統合と共存のシステム”と、それに外側から「鉄のたが」をはめる”強靱な支配の組織”から成っているというものである。本書はその成立から終焉、つまり近代西欧的ナショナリズムの浸透までを扱う。刊行から30年近くになるが、他のオスマン帝国本が出るたびに合わせて読み返したくなる。2020/09/02
俊
25
オスマン帝国は専制君主制の中央集権国家という強固なシステムと、民族、宗教の多様性を認める柔軟さを併せ持つ「柔らかい専制」国家。強力な常備軍「イエニチェリ」を擁し、シルクロードや地中海といった交易路から非常に大きな収益を得ていた。キリスト教以外の宗教を敵視していた中世の欧州と比べると、他宗教の存在を認めたオスマン帝国はかなり寛容な国だ。ただ、オスマンの寛容はあくまでもイスラム教の支配を前提としており、平等ではなかった。面白くて分かりやすかったけれど、後期、衰退期の説明が少なかったのが残念。2014/06/09
かさねパパ
18
読み始めてから随分時間が掛かりましたが読了しました。ちょうどテンプル騎士団も読んでいて、交互に読みました。学生時代の教科書は、あまり中東~イスラムを取り上げないので、年号と皇帝の名前を覚えてる位でしたが、こうして通史として読んでみると、自分がいかに無知であったかに気づきました。中世、イスラムは西欧の憧れだった~文化、文明共に先進していたとは・・、やはり現在の西欧中心の歴史観は客観的なものとは言えないのでしょう~それを知る人はどのくらいいるのでしょう・・、そんな事を考えさせてくれる本でした。2015/06/03