出版社内容情報
【内容紹介】
一生の大部分をかけて自分は何をやりたいのか、何になりたいのか。いったい何のために働くのか。たとえ給料はあまり上らなくとも、自分らの意志で、納得のいく仕事がしてみたいと望むのはなぜか。何かをなしとげた時に味わう手応え、自己実現への欲求こそ、労働の本質である。会社勤め15年の体験をふりかえりつつ、働くことの意味と意識を考える。
働くことと遊ぶこと――「労働」と「遊び」を互いに背反するものと考えるのではなく、むしろ、相互補完的な人間の営みとして受けとめようとする姿勢こそが重要なのだ。「労働」の中には「遊び」がひそんでおり、「遊び」の底には自己表現を核とする「労働」が沈んでいる事実が忘れられてはならないのである。「労働」は疎ましく「遊び」は好ましい、という単純な感覚論をもってしては、「労働」そのものはおろか、「遊び」の本質さえ掴みそこなうことになるだろう。つまり、「労働」のあり方が正確におさえられていなければ、「遊び」のありようも探れぬわけである。いずれにしても、「遊び」に向けられた欲求のこれほどまでの肥大を、生活レベルの向上による文化的豊熟の表現であると喜んでばかりはいられない。「労働」が病んでいる時には、「遊び」もまた病んでいるのだ。――本書より
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ホークス
45
「働くとは何か」を著者の就業経験から考える。1982年刊。就職した時、職場ごとのルール、厳しい時間管理、自由時間の圧倒的少なさに異質な世界を感じて愕然とする。次は「整然としていない世界」との遭遇。会社の外も中も、よく見ると世の中も混沌としていた。しかし、仕事に個性が反映されるに従い「自己実現」の感覚が生まれる。また仕事を共にする事が製品やプロセスを介した「連帯」を生む。この二つが「会社員」という存在を正当化する。併せて必要とされる倫理は、組織人でなく職業人の倫理だとも言う。今も説得力を持つ考察だと思う。2019/07/15
mattu
29
仕事、労働について改めて考えさせられますね。今のような不安定な時期には響きます。自己を見つめ直し行動を変えていくことが必要です。2020/04/28
みねね
25
まだ労働が身体に馴染んでいなかった一年目で読みたかった本。けれども迷走の二年目で読んでいたら、転職に踏み出していたであろう本でもある。それほど職業に対して真摯な姿勢を貫き、また読者にも同じ姿勢を要求する。経理にそろばん支給という時代のものだが、現代にも通じるものが多かった。雑感とまとめ。/時間的・内容的制約の中で与えられた仕事の中に自己実現を見出すことが大事。/企業に入ったなら、24時間企業人でいることが求められる。/国鉄職員は、キップを切るから国鉄職員なのである。この伏線回収は鮮やかだった。2023/05/09
あきあかね
23
「働くということは生きるということであり、生きるとは、結局、人間とはなにかを考え続けることに他ならない。」 大学を卒業後、自動車メーカーで勤務しつつ小説を書き、三十代後半で会社を辞め作家として独り立ちするまで十五年の間会社員生活を送ってきた著者であるから、働くということを自身の経験に基づき内から語ることができ、また、外の視点から客観的に見つめることもできる。本書では、人は金のみのために働くのか、働くことの核心にあるのはなにか、働くことと遊ぶことなど、本質的な問いが投げかけられる。⇒2021/11/21
Bartleby
16
著者が入社したのは1950年代なのでさすがに時代の変化を感じる点もある。でも今にも十分通じるものが多くあり、働くということを考える上でとても参考になった。中でも印象的だったのは毎日キップを切り続ける国鉄職員の問いだった。彼の、「自分は国鉄職員であるからキップを切るのか、キップを切るから国鉄社員であるのか」という切実な問いに対して、著者は「キップを切るから国鉄職員である」と答える。今はまだこの問いの切実さを強く感じられるわけではないけれど、いずれこの問いと答えがもっとよくわかるようになれる気がした。2014/01/29