内容説明
不眠症の高校生・桧山は毎夜窓の外を見下ろし、夜の町に深い海のような孤独を見ていた。そんなある夜、やはり眠れずに彷徨していた同じクラスの矢鳴に声をかけられる。二人は次第に打ち解け合い、少女・キューピーさんも輪に加わって心地よい日々が始まった。しかし、矢鳴は「あれ」と呼ばれる奇病に罹っていた。身体のそこかしこが痒くなり、やがて…。喪失の痛みと、それでもなお繰り返される「日常」の残酷。20歳の新星がものした、たったひとつの“かけがえのない物語”。かつてどこにもない、ここからしか生まれ得なかった青春文学。第2回野性時代青春文学大賞受賞作。
著者等紹介
埜田杳[ノダハルカ]
1986年、静岡県生まれ。2005年、第一回野性時代青春文学大賞に応募し二次選考通過。06年、本作により同賞第二回大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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こっぺ
7
ホントに設定が奇抜。なのに、「普通」の高校生活に馴染んでしまっているのがすごい。「ともだち」との微妙な距離感が好き。ただ、話を聞いてやることしかできなかったりするのだなぁ。しかし、「話を聞く」って言う行為は立派に愛だと思う。2009/04/02
てまり
6
夜、街は海になる。のっけからこのイメージに取り込まれてしまった。自分が選び決めてゆくということは同時に、ひとからも選ばれ決められてゆくということ。うかがい知れないひとの心の内と距離を計りながら、何かを信じたり、不安になったり、喜んだり悲しんだりして、生きてゆくものなんだろう。病以外は何の奇抜さもないのに、ものすごく気持ちに添う物語だった。どうも青春ものには、弱い。2007/01/25
空梅雨
5
不眠で毎夜窓から深海のような街を眺める檜山は、ある晩暗闇から自分の名を呼ばれる。それは「あれ」という病にかかり毎夜徘徊する高校の同級生矢鳴であった。キューピーさんを加え三人は「あれ」の秘密を共有することで繋がって行く...タイトルとパラパラとめくったときに目に入ったキューピーの単語が決手で読みました。が、読み始めると青春を謳歌しているとは言い難い高校生、しかも話に奇病「しまったかな」と。ところが死は「あれ」の症状のお陰で象徴的に描かれて強調されず、思春期のアンバランスで不器用な心が優しく描かれています。2014/06/14
めくる
5
とっても好きな本。静かに終わっていく話。だけどこの話は結末ではなくて途中経過にこそ見るべきところがあると思う。些末だけど、とても大きい、儚く大切な思い出たち。2011/07/28
ちより
5
喪失による傷や痛みは、癒えることはなくても忘れていくことはある。些末な思い出と言い切ってしまえるほどに。それが哀しい。失っても変わらない自分や自分の涙を美化しない潔さが好きだ。冬の夜の空気のように冷たく湿った雰囲気が心地よい。2009/10/02