角川文庫<br> 蛍川

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角川文庫
蛍川

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  • サイズ 文庫判/ページ数 178p
  • 商品コード 9784041469019
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

内容説明

堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、まだ焼跡の名残りを伝えていた、昭和30年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作「泥の河」。立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期の少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという蛍の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した「蛍川」。鮮烈な抒情がみなぎる、期待の新鋭の代表作二篇を収録。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

chikara

80
本が黄ばむ程の年月を経て再読。『流転の海』から『満月の道』迄を再読を含めて読了したばかり。この作品が宮本輝氏の原点なのか。主人公の少年は松坂伸仁、父は熊吾、母は房江に思えてしまいます。ライフワークとなる『流転の海』の原点の筈です。2015/03/12

はる

71
再読。『泥の河』が読みたくて。戦争から急速に復興する大阪。その流れから取り残されたような町と、そこに生きる人たちを幼い少年の眼差しから描く。濃厚に漂う時代の雰囲気。廓船で育つ姉弟との束の間の交流は切なく胸に響く。少年の頑是なさが哀しい。主人公の父親の、死んでいった戦友たちへの想いを引きずったまま生きる姿も印象的。映画の田村高廣さんの演技が素晴らしかった。子供たちの前で手品を見せる場面の優しいまなざしが秀逸。2018/10/10

催涙雨

66
わたしの知らない時代の話なのになぜか猛烈な郷愁に引きずられ、静謐に満ちた悲しみに覆われるような、そういう気持ちにさせられた。どちらもすばらしいのだが敗戦の残滓が溝川のようににおい立つ「泥の河」のほうがよかった。喜一が握りつぶした鳩を見て涙を流す、船で現実を目にして号泣する、ポンポン船を追いすがって声を振りしぼる、この三つの信雄の姿の筆舌に尽くしがたい悲しみといったらない。それだけでも読む価値は絶対にある。娼婦として口糊をしのぐしかない家庭という子どもにはどうすることもできない現実は単に白眼視して済ませる2019/03/17

hit4papa

51
北陸は富山を舞台に、複雑な家庭で育った少年のひと時を切り取った作品です。少年とその母、級友らとの関わりは、中学生にしては幼いのですが、その目には残酷な現実が映っており、ゆえに深い感銘を与えます。それは本書に同時収録されている、廓舟に住まう姉弟と少年の交流を描いた『泥の河』にもみられます。母と級友とを連れ立っての蛍狩りが本作品のクライマックス。蛍が舞い踊る妖しくも美麗な圧巻のシーンは、純文学の力強さを感じます。本作品は、著者が30歳の頃の作品ですが、若い頃から文学的に老成していたんでしょうね。【芥川賞】2017/06/27

メタボン

45
☆☆☆☆★ 情景が妖しくも暗く、そして光り輝く、素晴らしい作品二つだった。燃やされた蟹の閃光(泥の河)、蛍の乱舞がかたどる英子の人影(蛍川)。どちらも鮮烈な印象を心に残す。金銭的に恵まれない廓船で暮らす姉弟、事業に失敗し不遇なまま死んでいく父とその再婚妻と息子、共通する雰囲気がある。また馬車に轢かれて死ぬ男、用水路でおぼれて死ぬ友人という、「唐突な死」も、生と死の対比が良く表されていて、読ませる。全体に漂う抒情性もたまらなく良かった。2017/03/16

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