内容説明
「この世界が腹立たしくってしょうがない。人生の真実なんて、たかが知れている。」ジェイコブ、十九歳。肌にひりつくセックスへの衝動。クスリで濁った頭。身体に染みついたジャズのリズム。この感覚だけが、ジェイコブの真実だ。路上にさまよい暮らすうちに膨れあがった愛と憎しみは、次第に殺意へと転化してゆく―。抑圧に咆哮する魂の遍歴、読む者を焼き尽くす鮮烈な青春文学。
著者等紹介
中上健次[ナカガミケンジ]
1946年和歌山県新宮市生まれ。作家・批評家・詩人。『灰色のコカ・コーラ』でデビュー。73年、『十九歳の地図』が第六九回芥川賞候補となる。75年『岬』で第七四回芥川賞を受賞。ウィリアム・フォークナーに影響を受け、土俗的な手法で紀州熊野を舞台に「紀州サーガ」とよばれる小説群を執筆。92年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
32
☆☆☆ 疾走感のある文章は良かったが、唐突な場面転換についていけず、物語にはのめり込めなかったのが残念。殺人の必然性もわからなかった。2017/07/24
tomo*tin
23
爆音でジャズが鳴る。振動する空気、安息とは無縁の衝動、セックスとドラッグ、汚濁に塗れた愛、ひた走る絶望、出所不明の憤怒、混沌の中にある一筋の光。その光は希望でも救いでもないけれど、今ここに存在するもの、として痕跡を残す。誰かにとっては掠り傷でも、別の誰かにとっては致命傷となる痕跡を。轟音に窒息しそうになり幾度も眩暈を覚えつつ、私たちは誰もがいつかの19歳を持っていることを知る。やっぱり中上作品は、こわいよ。こわくて、苦しい。2009/06/16
メルト
19
セックスとドラッグにまみれ、音楽だけが美しいものとして存在するジェイコブの日々を描いた物語。たしかに美しいはずなのに、読み進めるのは不思議と苦労する文章だった。ジェイコブの日々にはおそらくぼくは経験することのできない不思議な輝きがあったが、そんな中でも抑圧する存在としての父親がいて、ぼくが感じているものと地続きの息苦しさも確かにあった。この作品をきちんと読み切れた気がしないので感想がうまく書けないが、「人間はどうせ血の入ったズダ袋」という言葉が印象に残った。2020/05/04
ちぇけら
19
ついにここまできたんだ。殺す殺す殺すという衝動をずっと求めていたんだ。「灼熱の砂漠、熱砂の砂漠」、空は血に染まって真赤な夜明け。青春はセックスとクスリにまみれた便所の水のなかに、オマンコとジャズだけが体に染み入って、頭はクスリで濁る。ここじゃない、ここじゃないんだと手探りで進む狂った頭で。「誰が死のうと殺されようといいじゃないか。どうせ血のつまったズタ袋じゃないか。豚みたいに生きてるんだろ。何にも知らないでただ生きている。吹っとばしてやりたくなるよ」つみあげていく虚構を青春の燃え滓にさせるな。輝け。2019/02/17
東京湾
16
「この世界が腹立たしくってしょうがない。この世界はよごれすぎているような気がします」クスリとジャズと性に溺れ、世界に飽いて、砂漠を渇望する青年、ジェイコブ。響き渡るコルトレーン、尽き果てぬ破壊の衝動。正直これはほとんど理解できず、雰囲気に身を委ねるがまま、人物の言動を俯瞰し、情景と臭いとを思い浮かべる、そんな風にして読み進めた。どう解釈すべきなのかな、じぶんはまだ「紀州サーガ」に一冊も触れたことがないので、それらを読んでからまた読み返してみたいと思う。暴力的で退廃的な雰囲気は好きだ。今はそれだけ。2017/05/12