内容説明
鼓作りの男が想い焦がれた女性へ、嫁ぐ時に贈った自作の鼓。その音色は尋常とは違い、皆を驚かせた。それは恐ろしく陰気な、けれども静かな美しい音であった…。夢と現実とが不思議に交錯する華麗妖美な世界。表題作をはじめ、その粋を集めた夢野文学の入門書ともいえる決定版の一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェルナーの日記
233
作家・夢野久作氏の作品による傑作選集。夢野氏の作品の特徴は、一人の人物が延々と話し言葉で事件の顛末を明かしていく独白体形式によるものと、書簡をそのまま地の文として羅列し作品とする書簡体形式によるものが有り、前者は『悪魔祈祷書』『支那米の袋』などで、後者は『瓶詰の地獄』『少女地獄』『押絵の奇蹟』などがある。本書には、『悪魔祈祷書』『支那米の袋』『瓶詰の地獄』が集録されていて、夢野作品の特徴を満喫できる。夢野氏の物語は、江戸川乱歩のように時代を超え、現在でも十分に通用する魅力をふんだんに持っている。2021/05/14
優希
75
独特の味わいがありました。夢と現が不思議に妖しく交錯する世界は華麗です。ちょっと危険な香りがするのもまた魅力ですね。グロテスクさを感じさせつつも、美しさのある雰囲気が癖になりそうでした。2016/11/11
みっぴー
64
癖のある一人称に加え、頻繁にカタカナで表記される表現に手こずりました…。半ば意地で読み終えたのですが、ドグラ・マグラの準備運動くらいにはなったのかなぁ。。。一作目の『死後の恋』が一番好きでした。残酷なほど儚く美しい恋物語。ロシアの大地に散る血塗られた宝石の正体とは。。。『支那米の袋』ーー現代でも割りと普通に行われてそうで、ゾッとしました。『瓶詰地獄』ーー解説サイトへ直行!『悪魔祈祷書』ーーじわじわくるやつ。妙に実話っぽくて、「やー、ないない」とは言い切れない。全作、濃度濃すぎです。2017/11/05
sayzk
10
再読。前回読んだ時も今回も、好きなのは「悪魔祈祷書」。前回から全く忘れ去っていたのに今回面白かったのは「いなか、の、じけん」。 結末がスッキリいくとは限らない。悲愴であったり酷くあったり。2020/04/19
駒子
9
既読の「死語の恋」「瓶詰地獄」「支那米の袋」「あやかしの鼓」以外を拾い読み。目当てにこの本を購入したくらい期待値が高かった「いなか、の、じけん」が良かった。田舎独特の無秩序、人の腹黒さ、不気味さにゾクゾクする。「怪夢」は理屈では計れない怪しさが『ドグラ・マグラ』を思い出させる。怪奇と幻想の両方がうまく混ざりあったこの感じ、くせになりそう。2016/11/25