出版社内容情報
老いた妻の発作的な豹変に戸惑う夫の緊張感をユーモアと共に描き、選考委員諸氏に絶賛された第4回林芙美子文学賞受賞作「タイガー理髪店心中」。幼少時に亡くした母親の記憶を繰り返し反芻する老女の感慨を描く表題作。独特な土着性で伸びやかな資質を感じさせる大型新人のデビュー作。
内容説明
穏やかだった妻の目に殺意が兆し、夫はつかの間、妻の死を思う。のどかな田舎町で変転する老夫婦の過去と行く末。伸びやかでスリリングな視線、独自の土着性とユーモア。第四回林芙美子文学賞受賞作。
著者等紹介
小暮夕紀子[コグレユキコ]
1960年岡山県生まれ。岡山大学法文学部卒業。2018年「タイガー理髪店心中」で第四回林芙美子文学賞を受賞しデビュー。家族は夫一人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なゆ
133
なんと表現すればいいのか。いぶし銀の可笑しみと、もの哀しさ。地味ーにインパクト強くて、これはクセになりそう。何しろ、このタイトルの雰囲気に参った。表題作は老夫婦が営む理髪店が舞台。だんだん認知症ぽくなっていく妻と、やけに独り言の多い店主の虎雄。支えあい穏やかに暮らすふたりに、ほのぼの読み進めていくと…!なかなかスリリングな展開。もう一篇の『残暑のゆくえ』もそれぞれ記憶に蓋をして生きる老夫婦の泣き笑い。年をとることで抑えがきかなくなるものがあったり、或いは古い記憶がまた違う角度から蘇ったりするものなのかも。2020/09/28
モルク
122
のどかな田舎町で親の代からの理髪店を営む寅雄と寧子夫婦。認知症を発症した妻と老々介護ではあるが静かな日々を過ごしていた。ふたりには6才で亡くした息子がいた。息子の事故現場である山の穴。それが心の闇の深さと通ずる表題作。戦争大陸からの引き上げで封印した過去を持つ老夫婦を描く「残暑のゆくえ」年の離れた夫は白寿を迎え過去の出来事が時々発作のように蘇るが…中編2編がおさめられているが、老夫婦のほのぼの系かと思いきやなかなかの怖い話だった。2021/04/18
よつば🍀
112
第4回 林芙美子文学賞受賞作「タイガー理髪店心中」に「残暑のゆくえ」を加えた2篇収録。表題作はのどかな田舎町で暮らす、どこにでもいそうな老夫婦の話。亡き父が残してくれた理髪店「タイガー」83歳の寅雄だが、未だ現役で店主として店を続け、妻の寧子と共に一見平和な暮らしを送る。平々凡々な日常生活を送る中、少しづつ壊れて行く妻、それをどこか俯瞰的に見つめる夫、文中からは未必の殺意が感じられ静かな恐怖を感じる。「残暑のゆくえ」は食堂を営む日出代とその夫の過去の秘密が、ほの暗さを纏いながら徐々に明かされ陰鬱な読後感。2020/01/25
fwhd8325
111
タイトルから想像していた内容と全く違いましたが、それはすごい作品だと思いました。表題作と「残暑のゆくえ」の二本立てですが、どちらの作品も独特の世界観で描かれていて、ゾクゾクします。モノクロームの世界に光量だけがやけに強く感じるイメージです。薄気味悪さが、癖になりそうです。2020/08/23
ちゃちゃ
110
ほのかなおかしみの中に、人の心の深淵を覗き見るような恐怖が隠されいてドキリとする。中編2話からなり、二作とも老夫婦の関係性に潜む闇がテーマ。『タイガー理髪店心中』は、理髪店主と認知症の傾向が出始めた妻との穏やかな日常が、実は罪悪感や残酷さを内包したものであることを突きつける。息子の事故死現場となった山頂の穴の設定が、心の闇の深さを思わせて巧い。『残暑のゆくえ』は、戦争の深い傷を負う老夫婦の孤独が、明るい日常の中の暗部を浮き彫りにして心に迫る。老いとは生の暗闇と向き合うことでもあるのかと戦慄すら覚える。2020/12/20