内容説明
物語とは、物=霊の発する言語であった―。物語はいかに発生し、成立したのか。物=霊を憑衣させた漂泊芸能民による浄化・鎮魂儀礼としての語りが、王権的秩序に取り込まれ、文字テクスト化される。画期的な『平家物語』論をはじめ、ひろく日本中世の文学テクストにおける位相的な転位のメカニズムをときあかした諸論考に、新たに平安時代の「物語文学」論を加え、著者の思想の原点を示す書を、決定版としてここに送る。
目次
第1章 物語―触穢と浄化の回路
第2章 物語りの巫俗
第3章 王権的時空と反世界―平家物語論
第4章 太平記―情況と言葉
第5章 仏と神―教化のイデオロギー
第6章 和歌と天皇―“日本”的共同性の回路
補章 平安時代の「物語」と物語文学
著者等紹介
兵藤裕己[ヒョウドウヒロミ]
1950年、名古屋市生まれ。日本文学・芸能論。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。埼玉大学、成城大学を経て、学習院大学文学部教授。著書に『太平記“よみ”の可能性』(講談社学術文庫、サントリー学芸賞)、『“声”の国民国家』(講談社学術文庫、やまなし文学賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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うえ
8
物語の発生と成立を問う。「仏教を公伝というかたちで上から移入したわが国において、寺院とはすなわち官寺であり、それはなによりもまず民衆支配の装置として存在した。仏教において、寺院がほんらい信仰上の重い位置をしめた以上、寺院および寺方説教は、容易に民間の教化活動にたいしても優位を主張しえたはずである。そして寺方の教化・唱導の正統性が、それが独占的にミコトモツ仏典・論疏類(文字テクスト)によって保証されたとすれば、それに対抗する思想上の拠点は、しばしば民間の土俗的な神信仰にもとめられたろう。」2021/02/07
耳クソ
1
王権との喧嘩の仕方などが書いてあります。2020/09/26
nanchara_dawn
0
日本文学・芸能についての論文集。かつて物語の語り手が負わされた<触穢と浄化>の機能や、『平家物語』を文字テクストとして受容することの陥穽、『平家』や『太平記』あるいは仏教と天皇制との関わりや、王朝社会において和歌を”詠む”(”作る”のではなく)ことが持っていた意味、さらには平安時代の「物語」の担い手たちやその「物語観」について。やや左翼的ではあるけど、各論文とも視点が独特で面白いと思った。2011/06/16
いちはじめ
0
興味深い論考が多いが、同じ著者の「太平記<よみ>の可能性」あたりと比べると生硬な文章でやや難解。2011/05/16