出版社内容情報
民族、国家、宗教、言語……。独自の社会主義連邦の道を歩んできたユーゴの解体から三〇年。暴力と憎悪の連鎖が引き起こしたあの紛争は、いまだ過ぎ去らぬ重い歴史として、私たちの前に立ちはだかっている。内戦終結から現在にいたる各国の動向や、新たな秩序構築のための模索などについて大幅に加筆。ロングセラーの全面改訂版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
68
25年前の名著の増補改訂版。1996年以降の混沌とした南スラヴというか西バルカンの状況を50ページほどで加筆してある。前著の、当時の「セルビア=悪者」的な報道や著作から距離を置き、フェアに状況を捉えようとする著者の姿勢は、当然本書でも貫かれている。ユーゴスラヴィアという地域の諸民族主義の突出についても、歴史的にはほんの一時期であり、政治的な要素などを加味してみるべきという視点は、今も重要性を失っていない。その意味でこの新版は時期を得たものと思った。しかし本書上梓直前に著者が逝去されていたとは。R.I.P.2021/12/16
BLACK無糖好き
28
多様な民族、言語、宗教の共存を目指した複合国家としてのユーゴスラヴィアの形成と解体の過程を辿る。かなり複雑な地域なので、適宜、地図や表が挿入されてるのはありがたい。とりわけ冒頭の「旧ユーゴスラヴィア各国の現況」の一覧表は、民族構成や主な宗教、言語をおさえておく上で大いに役立った。紛争が多発した要因を単にバルカンの複雑な歴史と特殊性に求めるのではなく、権力や政治基盤を保持あるいは新たに獲得しようとする政治エリートが民族や宗教の違いを際立たせた面を著者は指摘している。ここは重要なポイント。2023/04/02
夏
25
「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」という表現に端的に示される、複合的な国家、ユーゴスラヴィア。オスマン帝国支配下の時代から現在までの、ユーゴスラヴィアの歴史を語る、『ユーゴスラヴィア現代史』の新版である。わたしはユーゴスラヴィアという国のことをあまり知らなかったので、この本で初めてユーゴスラヴィアという国のことをある程度知れたといえる。セルビア中心の話が多い気もするが、首都がベオグラードだから仕方ないのだろうか。有意義な読書時間だった。星3.5。2022/10/13
崩紫サロメ
20
1996年に刊行されたものの改訂版、そして著者の遺作となった。ユーゴスラヴィア内戦当時、西欧メディアによって鼓吹された「セルビア悪玉論」についてもその背景が説明されている。例えばブッシュ政権は湾岸戦争以来イラクとの緊張関係にあり、イスラム諸国によるムスリム人支援を拒否できなかった(p.198)など。「ユーゴスラヴィア人」という国民国家形成の「実験場」としてユーゴで行われた模索は、「小ユーゴ」であるボスニアで今も続いている、というユーゴスラヴィアの終わらない歴史で結ばれている。2021/10/05
Francis
19
猫町倶楽部シネマテーブルで「アイダよ、何処へ?」が課題映画となったので積読していたこの本を参考に読んだ。旧版も購入していて良い本だったので購入。残念ながら著者の柴先生は出版直前に死去。旧版と同様、旧ユーゴスラビアの成立と解体、そして解体後の各国の歩みが述べられている。かつてユーゴスラビア解体はこの地域の歴史から言って仕方ない事なのだ、といかにも「上から目線」で語られていた。しかしそうではなく、今の西欧でも起こっていたかもしれなかった事だったのだ。最近ようやく和解の動きが定着しつつあるとのこと。2021/09/30