内容説明
贈与や交換は、社会の中でどのような意味を担っているのか?モース(1872‐1950)は、ポリネシア、メラネシア、北米から古代のローマ、ヒンドゥー世界等、古今東西の贈与体系を比較し、すべてを贈与し蕩尽する「ポトラッチ」など、その全体的社会的性格に迫る。「トラキア人における古代的な契約形態」「ギフト、ギフト」の二篇と、詳しい注を付す。
目次
トラキア人における古代的な契約形態
ギフト、ギフト
贈与論―アルカイックな社会における交換の形態と理由(贈与について、とりわけ、贈り物に対してお返しをする義務について;贈り物を交換すること、および、贈り物に対してお返しをする義務(ポリネシア)
この体系の広がり。気前の良さ、名誉、貨幣
こうした諸原理の古代法および古代経済における残存
結論)
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
62
お歳暮等に代表される贈与。建前上は自発的、実際は贈る・受け取る・返すという義務から成る贈与の社会的な意味を探る本。作者は古今東西の贈与の体系を概観し、現代の資本・功利主義とは全く別の倫理を持つその体系に人間の「行動原理であり続けてきたもの」があると語ります。贈与とは、ある集団が異なる集団・人と、物を贈ることで連盟し、また物を贈ることで互いに優越しようとする装置で、剣ではなく財で友好と競合を体現することで様々な社会関係を安定化させてきた「連帯の不変の秘訣」。それは今日でも重要な意義を持つように思いました。2022/08/26
壱萬弐仟縁
42
1921年初出。訳者解説によると、モースはラディカルに社会運動・政治運動に実践的にコミットした経験をもってもいた(488頁~)。ギフトには贈り物と毒と2つの意味を持つ(37頁)。人と人とを結びつける物の交換と贈与は、共通の観念基盤にもとづいておこなわれている(43頁)。けちんぼはいつだって贈り物をこわがる(58頁)。遅れた社会でお返しする義務があるのか(傍点61頁、私なりに意訳)。倫理と経済は諸社会においても恒常的、潜在的に機能しているのが認められる(63頁)。 2016/03/27
(haro-n)
38
未開社会といわれる社会に見られる法的・経済的等の総合システムとして全体的給付(贈与)の体系を示し、その実態や原理を扱った論文。具体的事象を論じる箇所は興味深く読めたが、結論に向かい大風呂敷を広げ過ぎの感があった。全体的給付の体系が社会全体を活性化させることから、それが現代社会の諸問題とどう結び付けて考えられるかという箇所の議論が雑で説得力に欠けた。各システムの背景やその功罪等、もう少し具体的検証が必要なのでは…。それでも、贈与の仕組みに注目し人間同士の普遍的な関係・心理を論じたその切り口は魅力的だと思う。2017/06/28
きゃんたか
27
ある首長が収穫の記念に祭宴を開いたところ、招待し忘れた首長に恨みを買われ、愛娘を殺されてしまう。今では無償と考えて当然な贈与でさえも、古代部族では想像を絶する強制力を秘めていたのだ。大金を貢いだアイドルにつれなくされ、ファンの男が逆恨みにナイフで切りつけるという事件にも似たような血腥さを感じるが、目に見えないものの力が極端に抑圧された今日であってみれば、マナの呪力などという神話も、かえって新鮮に受け取れるのかもしれない。経済に収まりきらない全体的な社会構造を分析することで、近代人類学の先駆けとなった。2017/09/21
彩菜
22
未開社会では交換・契約は全て贈り物のやり取りで行われる。何が人に贈り・返し合うよう仕向けるのだろう。まずこの贈与は経済活動だ。利を求め財を贈り合う。だがその財こそ神話的に語る。霊や呪力、贈られてなお贈り主の力を感じさせるその物は贈り主の一部、与えるとは自身を与える事と。そう、贈与は経済活動と同時に人と関係を結ぶもの。人と人の関係は相手に全てを委ねるか・拒絶するか、だから人は贈り合う。著者はこの経済を理想と言う。そこには戦いと孤絶に換え連盟と交際が、利益の追求という考えの不足を補うものがあると彼は思うのだ。2019/09/15