出版社内容情報
夢と現実のあわいに浮び上がる「迷宮」としての世界を描いて現代文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九―一九八六).われわれ人間の生とは,他者の夢見ている幻に過ぎないのではないかと疑う「円環の廃墟」,宇宙の隠喩である図書館の物語「バベルの図書館」など,東西古今の神話や哲学を題材として精緻に織りなされた魅惑の短篇集.
内容説明
夢と現実のあわいに浮び上る「迷宮」としての世界を描いて、二十世紀文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九‐一九八六)。本書は、東西古今の伝説、神話、哲学を題材として精緻に織りなされた彼の処女短篇集。「バベルの図書館」「円環の廃墟」などの代表作を含む。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ねこ
148
80年程前に書かれた伝奇集。短編がプロローグを除いて17篇。私には作者が象徴として引用した書籍が価値ある本。その他無限に近い本との対比が迫って来ておまえが生きている内に読むべき1000冊程を選び取れ!と言われた感覚がありました。…不思議。それと当時のヨーロッパ宗教の理解が必要ですね。今の聖書に無い外典の引用が多数です。好きなお話は円環の廃墟、八岐の園、死とコンパスです。口に出すには神聖すぎる理由で神の名を「τετραγράμματον(テトラグラマトン)古代ギリシャ語」をヘブライ人はJHVHと記したよう。2022/11/22
抹茶モナカ
147
難しかったです。読んでいると濃い文学世界に浸れるのだけど、掴めそうで掴みきれない感じがあった。いつか再読したら理解できるかな、と思いながら読了しました。よくわからない歴史学者や哲学者の名前の注釈に振り回されているうちに、ちょっと面倒臭くなっちゃったりもして。そんな感じが、作家のための作家と呼ばれる所以なんだろう。2016/12/31
Gotoran
106
先の『エンデが読んだ本』で紹介のアルゼンチンの幻想作家、ボルヘス。邦訳のある本書を読んでみた。著者の文学・哲学・神学への豊富な造詣に裏打ちされた、架空の書物や作家、夢や迷宮、無限と循環、宗教・神を題材にした短編集(8編の『八岐の園』、9編の『工匠集』)。発熱するような知的好奇心、究極の幻覚的エッセイの「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」、絶望的な退廃感漂う「円環の廃墟」、有限・無限の解釈を垣間見る「バベルの図書館」、著者の思索を奔放に綴り迷宮に誘う「八岐の園」他。難解ながらも、↓2014/06/07
buchipanda3
96
作品集、いや虚妄集だろうか。その妄想っぷりの見事な佇まいについずるずると引き摺り込まれる。それは知的ながらマニアックな奥深さのある論説を嗜むようで、その愉しさを満喫した。文章は簡易な図形が見せる調和の取れた美しさがあり、現実と虚構が混在する中、秩序と無秩序、無限と反復回帰を対峙させる世界観に不可思議を越えて虚実が反転するような感覚に囚われた。トレーンの話は浸食が実世界に存在してもおかしくないと思わされ、「円環の廃墟」では夢との交錯が自己の真の素顔を探求させ、「南部」は白日夢からの覚醒の意味を考えてしまう。2023/12/22
藤月はな(灯れ松明の火)
75
コルタスの感想を書いた時に読友さんから「ボルヘスも好きそうですね」とコメントされて興味が出て読みました。全ての事柄に内包されており、導き出される数学的な論証と哲学的な観念で遊ぶような「八岐の園」、不条理な謎とそれに付随する暴力と血の匂いの「工匠集」。特に「バベルの図書館」の緻密さと無限さは読者の頭の中でさらに無限に拡大していくのではないでしょうか。南米文化の授業も取っているのでそのことについても触れている解説も嬉しかったです。2012/05/27