出版社内容情報
ちょっとしたずれが,日常の風景を一変させる.ときめきと居心地の悪さ.どこからか洩れてくる忍び笑い.それは姿の見えない相手との鬼ごっこに似ている.兵士が,人妻が,詩人が,会社員が,もどかしくも奮闘する,十二の短篇.この連作が書かれた一九五○年代はカルヴィーノの作風の転回点にあたり,その意味でも興味ぶかい.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
87
12篇の連作短篇から成る物語。いずれもが「〇〇の冒険」といったタイトルで、いわばカルヴィーノによる「日常生活の冒険」といったところ。もっとも、冒険とはいっても、日常の延長の中にあって逸脱までも行かないのだが。カルヴィーノは、ここで様々な属性に人物を配してみることで、小説世界を構成する実験的な試みをしてみたのだと思われる。バッハが、『平均律クラヴィア曲集』で、様々な調性の曲を試みたように。本書の12篇という数も、あるいは「平均律」の24曲を意識したのかもしれない。なお、タイトルの「愛」は、行方知れずだ。2013/05/14
KAZOO
59
「まっぷたつの子爵」や「きのぼり男爵」で有名なカルヴィーノの短編集です。「ある??の冒険」という題で12のことばが??の個所に入ります。どれもありそうな感じのことばかりです。愛についての微妙な関係や感情、出来事をうまく短編にまとめてくれていて、私は個人的にはかなりお気に入りの小説でした。2015/05/14
藤月はな(灯れ松明の火)
50
一人でいることには慣れたけど、人が居るから存在できていることを理解して、それでも人といると不器用な人々における決して非日常にならない、日常の冒険を描いた短篇集。女の自惚れと反応の薄さに対する羞恥と恥ずかしさを描いた『ある海水浴客の冒険』、気になったことに囚われながらも日常を続けようとする『ある読者の冒険』、捨てようと決心したことが自分にとって唯一の道だったことに気づくほろ苦さを描く『ある写真家の話』、自分の喜びを知る嬉しさと寂しさを同時に知る『ある近視者の話』は自分と身近な話題だったので印象深かったです。2013/11/16
えりか
30
「ある兵士の冒険」から始まり「あるスキーヤーの冒険」で終る短編集。冒険といっても、日常のちょっとした場面をきりとっているだけ。でも、ちょっとだけ切り取ったそれは、少しだけずれているのかもしれないし、やっぱり冒険なのかもしれない。例えば、朝帰りをする人妻であったり、初めて眼鏡をかけた近視の男であったり。心の変化や新しい発見、あるいは「何も変わらない」し、「何もない」という発見(とりわけ「愛」について)は、日常の中で起こるのかもしれない。「ある詩人の冒険」が一番好き。2016/01/18
マガリ
29
12編の短編集、兵士、悪党、会社員、海水浴客、写真家、読書家、旅行者、近視男、詩人、夫婦、妻、スキーヤーの冒険。男女が出会うと何かが起こる、色恋沙汰になると複雑さは計り知れない。様々な思考をめぐらすも、決して他人の本心は見えない。そう自分自身も例外ではないのでは。理性を無くし大胆になったり、興味がないことに没頭したり、困惑しつつも妙に冷静であったり、何気ない優しさに触れたり、あるきっかけで世界が変わったり、「恋愛」は人生のスパイスは違いない。ただ「愛」は難しいのは間違いない。★★★☆☆1995年4月刊行2014/09/29