出版社内容情報
1920年代モスクワ,奇怪な出来事が続く―事務員コロトコフは分身に翻弄され,動物学者は不思議な光線を発見したばっかりに…ザミャーチン,ソルジェニツィン激賞の映画的作品とSFに,今,ブルガーコフ(1891―1940)が甦る.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k5
84
分身ものの「悪魔物語」と、バイオハザードものの「運命の卵」。新潮文庫版より映像的なイメージが分かりやすいと思います。何箇所か原文にも当たってみて、文法的にはどちらも正しいと思うんですが、たとえば「オランジェリーはにゅるにゅるした生き物のかたまりでいっぱいだった」(新潮)よりは、「温室全体が、まるで無数の虫がうごめいているように生きていた」(岩波)の方がおぞましさが伝わります。直訳すると「温室全体が蠕虫の粥のように生きていた」って感じなので。2020/08/29
ベイス
64
『巨匠とマルガリータ』で度肝を抜かれたブルガーコフ。ウクライナのキエフ出身だと今回知った。そこかしこにボルシェビキ革命への皮肉が込められた物語。予想を超えた展開にいつも唖然とさせられるが、「運命の卵」は、付いていける範囲でぶっとんでる分、読後感もスッキリ。彼がいま生きていたら、プーチンの横暴をどんな奇想天外なストーリーで描くのだろう。いまこそペンによる反抗を!豊穣なロシア文学の力を示せ!燦然たる系譜継ぐ文筆家たちよ蜂起せよ!と思わずにはいられない。1日も早い平和の回復を願って読了。2022/02/25
内島菫
36
【悪魔物語】主人公の「分身」は、主人公と微妙にずれた名前で他人から呼ばれるのみで、主人公の目の前に決定的な形で現れなかった(気がする)。つまり「分身」とは、不条理な存在ではなく、日常的に他者と自分の間に生まれているいくつもの自分と言えるのではないだろうか。そして主人公自身は、自分の運命を左右する地位にいる上司の分身を追いかけ続ける。そうしてどんどん当初の目的からずれ、読者をおいてけぼりにするほど収拾がつかなくなる。これはきっと現実を強固に包んでいる「不当な理想化」のパッケージを破り捨てた現実なのだろう。2017/11/29
Vakira
33
A&Bストロガツキーが面白かったので、ソ連のSF作家に興味が湧き、調べていたらブルガーコフを見つけ早速読んでみた。表題の「悪魔物語」:主人公コロトコフはマッチ工場の書記をしていたが突然首となる。訳が分からず首となる設定は、カフカや安部公房的不条理世界の感。復職を求めて駈けずり回るが、行く先々で悪魔の分身?の工場長に遮られる。SFではなく幻想的な社会風刺小説という事らしいが、単に不条理世界で翻弄される男の話の印象であった。2014/10/31
かわうそ
25
職場を首になった主人公が復職を求めて奔走する先々で分身する工場長に翻弄される「悪魔物語」と妖しげな光線を浴びて成長した巨大生物が大暴れする怪獣小説「運命の卵」。両作品とも官僚機構の理不尽さや社会の不条理をネタにした風刺小説ではあるものの難しく考えずとも単純にエンタテイメントとして非常に楽しかった。2013/12/19