出版社内容情報
愛の中に残りなく溶けこみ,愛する相手との真の合一を求める女主人公.だが,その実現はなぜ姦淫,あるいは恋人の死によらなくてはならないのか? 大作『特性のない男』で知られるムージル(一八八〇―一九四二)が,「魂の和合」という一括表題を与えた中篇二作.創作の出発点にムージルとの決定的な出会いをもつ作家による渾身の翻訳.
内容説明
のこりなく愛の中にとけこみ、愛する人との完全な融合を求める女主人公。だが、その実現はなぜ姦淫、あるいは恋人の死によらなくてはならないのか?大作『特性のない男』で知られるムージル(1880‐1942)が、「合一」という一括表題を与えた中篇2作。創作の出発点にムージルとの決定的な出会いをもつ作家による渾身の翻訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
80
「愛の完成」は取っ替え引っ替えに相手を変えて交わる事で夫への愛を確信する妻が描かれる。しかし、作中に夫は最後まで出て来ない。しかも物語は妻の独白と相手との会話のみで綴られるのみだ。もしかして、彼女の言う「夫」とは人物というような実像ではないのではないか。愛していることを証明するのは難しい。何故なら、愛していると思っているのは、理想化された相手の「虚像」かもしれないからだ。つまり、「夫」とは、存在ではなく、不可視で日常的な非日常の中で刹那に現れる観念なのかもしれない。「静かなヴェロニカ」はまだ、分かりやすい2017/08/02
syaori
57
『愛の完成』が印象に残りました。現在ある≪私≫とは「偶然なのだ」とクラウディネは思う。人は、自分の前にある、漠とした無限の可能性への不安と恐れから、自分を中心に編みあげた見方、価値観、繋がりという「偶然」に強く「すがりついて」いる。今の愛する夫との生活もそうで、彼以外の男が夫である「偶然」もあったのだ。そんな目で見ると、自分の愛の何と恣意的で表面的なことか。そう考え、夫への愛の偶然性を否定するために他の男に身を任せる、偶然を超えて「究極の内面性」に至ろうとする彼女の姿が、私の<現実>をも揺らすようでした。2020/04/21
lily
33
蝋燭を灯して、韓流ピアノを小さく流して、ベットで読むのがいい。波長が融け合って身体を熱くするかもしれないからね。官能小説ではないよ。甘美な文章には何回読んでも酔ってしまいそうだけど。2019/07/01
zumi
18
ここ数日ずっと読んでた。何がすごいのかわからないが、一つ言えるのは、ただ最高だったということだ。『モデラート・カンタービレ』以来の「不思議な愛の形」、『西瓜糖の日々』以来の、「苦しい読書」を味わった。私の中のオールタイムベスト入りは確実である。2014/05/07
ラウリスタ~
17
ある単純なストーリーがある、そしてその物語の中で動いているはずの一人の女の、心の中、ただし社会性とは何ら関係ない相当に深く潜った部分が延々と語られる感じ。そこに聞こえているはずの、男たちの言葉が、こちらは深い水の底に沈んでいるようにくぐもっている。全くもってわからない。2016/08/27